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「四重苦」の怒り 政府・東電に突き付けたい(福島民報社 安田信二)2011年9月

政府や東京電力は福島第一原発事故に伴う記者発表を連日、続けている。だが、福島県民が知りたい情報としてはスピード感に欠け、「質」も「量」も不足している。

 

福島県の厳しい現実や県民の声を県内外に訴えるために、8月から「3.11大震災 断面」の連載企画を始めた。1面と社会面を中心に、政治、経済、社会、暮らしなどの幅広い分野の中から取材テーマを選んでいる。毎日のニュースの「断面」を切り取、そして掘り下げ、背景や課題、見通しを浮き彫りにすることが大きな狙いだ。

 

これまでに掲載した内容は、放射性物質に汚染された学校や農地の除染、行き場のないがれきや汚泥の処理、避難所の閉鎖に伴う住宅の確保、県産肉牛の出荷停止、被曝に対する全県民の健康管理調査などがある。今後も県民の視点で取材を続け、地元の声を政府や東電に突き付けたい。

 

この他、さまざまな連載企画を展開している。震災直後から毎日、1ページを割いている「ふくしまは負けない」は被災者を励ます活動や、避難所・仮設住宅で暮らす人々の切実な思いを紹介してきた。社会面を中心にした「今を生きる」は、明日を信じて前に踏み出そうとしている被災者や、復旧・復興に取り組む人々を取り上げている。7月から始めた「原発大難」は放射性物質と向き合う県民や自治体の取り組み、古里への帰還や絆の再生を目指す動きなどを追いかけている。

 

毎夏の終戦記念日の前後に連載している戦後企画は今年、「被爆そして被曝 戦後60年目のふくしま」のタイトルで、半世紀余りの時を隔てた放射能に焦点を当てた。

 

震災から半年がたつが、事故収束の行方は依然として見えてこない。放射性物質による深刻な汚染状況がようやく分かりだし、政府は住民の帰宅までに20年以上かかる地域があるとの試算を示した。福島県が地震・津波・原発・風評の「四重苦」からよみがえるには長い歳月がかかる。県民の怒りや悲しみ、誇りをしっかりと伝えていきたい。

 

(やすだ・しんじ 1982年入社 2011年4月から編集局次長)

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