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東海・東南海・南海地震に備える 平時からの備え促す報道を(静岡放送 鈴木吉彦)2017年3月

 

静岡県は「東海地震がいつ起きてもおかしくない」とされ、1970年代の後半から備えを固めてきた。建物の耐震化などのハード整備、揺れや津波についての防災教育などだ。静岡放送では夕方のローカルニュースの時間に防災コーナーを設け、防災特番を制作し、県民に警鐘を鳴らしてきた。

 

しかし東日本大震災は、それが全く甘い考えに基づいていたことを私たちに示した。知識の上では分かっていたはずの津波の破壊力、甚大な被害が広域に及ぶこと、さらに想定を超えるもろもろの現象。全てが対策の再構築を求めるものだった。

まず大地震の発災時にどうするか。

 

とにかく津波からの避難を呼び掛けることだ。仮に駿河湾や遠州灘の陸に近い所を震源として南海トラフ地震が起きると、最悪の場合、数分で津波に襲われる地域がある。

 

それまで報道局内で実施していた訓練の手順を見直し、より早くローカル特番を立ち上げること、そして強いトーンで津波からの避難を呼び掛けることにした。河川を遡上した津波が内陸であふれることなども視野に入れた。アナウンス部主導で適切な呼び掛け方を検討している。

 

どの時間帯に発災するかで、取材・放送態勢が整うまでの時間差はある。それでも夜間の発災を想定した訓練には、泊まり勤務の者が1人しかいない状況でも、少しでも時間を無駄にしない心構えで臨んでいる。

 

どれだけ早く取材態勢を立ち上げられるかという点では、ヘリも大きい焦点の1つと考えている。被害の概況を把握するのにヘリの空撮が力を発揮する。社屋屋上のヘリポートが使えない場合に備え、社屋脇への着陸の検証を行った。

 

一方、グループ会社である静岡新聞も合わせてのBCP(事業継続計画)も進んでいる。2013年には燃料確保のために自前のガソリンスタンドが整備された。約30キロリットルのタンクにガソリンを備蓄、平時に社有車がここで給油することで、ガソリンが常に新しくなるようにしている。

 

またJNN系列においても、各局の連携を強めるために防災担当デスク・記者・ディレクターの人的なネットワークを作り、ツールや応援態勢の整備が進んでいる。

 

■厳しい現実から目をそらさない

 

次に大きく変わったと言えるのは普段からの地震防災報道そのものだ。

 

平時からの備えで緊急時の明暗が分かれるため、住民に備えてもらうための報道が、ローカル局の責務の1つだと考える。ところが、その備えのための前提が東日本大震災以降、大きく変化した。

 

南海トラフ地震の津波高の想定が大幅に見直された。東海・東南海・南海地震の3連動地震のおそれが、より強く指摘されるようになってきた。また昨年、国は、それまで東海地震対策の根幹をなしてきた予知の見直しに着手した。

 

 住民目線に立って言い換えれば、より高い津波に備え、予知も県外からの救援も、即、当てにしない準備がさらに必要になった。

 

これらを受けて、ニュースの中で「それでは救いがない」というレベルにまで、時に踏み込むようになった。厳しい現実を直視することから、対策と備えを見いださなくてはならない。東日本大震災を契機に、その意識がより強まった。同時に視聴者=静岡県民の中でも、その意識は大きくなったように感じる。

 

一方で東日本大震災から6年がたつ。これから怖いのは記憶の風化や訓練などの形骸化だ。それらを防ぐ報道を続けつつ、自分たち自身も戒めていきたい。

 

(すずき・よしひこ イブアイニュースプロデューサー)

 

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