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3・11から6年:備えと教訓(2017年3月) の記事一覧に戻る

「むすび塾」60回超える 防災報道の輪広げたい(河北新報社 武田真一)2017年3月

「どれだけ怖かったか、悔しかったか…。無念の死が問うところをいつまでも語り継ぐ。このまま忘れ去られるわけにはいきません」

 

会社員の息子を東日本大震災の津波で亡くした母親は、復興事業で大きく姿を変える宮城県女川町の被災現場に立ち、涙を浮かべた。

 

年明けから何度か津波被災地を巡る中で、語り部となった遺族の思いに触れる機会が続いている。

 

震災6年は七回忌に当たる。供養の節目を前に、改めて犠牲を見つめ直す厳粛な空気が被災地を覆う。

 

遺族にとっては「なぜ犠牲になったのか」「救えた命だったのではないか」との問い掛けを自らと地域や社会に向け直す節目であり、そこから発せられる「震災を教訓に、同じ犠牲を繰り返さないで」という訴えが重く響く機会になっている。

 

震災の本質は何か。復旧・復興過程も含めてさまざまあるだろうが、この先進国日本において、一度の災害で2万人もの命が奪われた事実1点に尽きるだろう。であれば、津波被災の脅威に向き合い、生死を分けた避難の明暗に思いを深め、次なる被災に備えることが最重要のテーマのはずだ。

 

災禍を間近に経験した者には、あの出来事を「忘れない」ために、より一層の努力が求められているのであり、歳月がたち風化の懸念が深まりだした今こそが正念場になる。

 

■「呼び掛け」だけでなく「働き掛け」を

 

河北新報社が昨年4月、「防災・教育室」を新設したのも、そのような被災地全体の思いが背景にある。

 

震災翌年から兼務体制で続けてきた月1度の巡回ワークショップ「むすび塾」などの取り組みを深化させるために専任体制とし、教育関係の担当者と合流する形で室を発足させた。

 

紙面を通じて備えを「呼び掛ける」だけではなく、地域に出向いて震災を振り返り、防災を語り合おうと「働き掛ける」。震災前の防災報道の反省から生まれた草の根の仕掛けとして、「むすび塾」は60回を超え、南海トラフ巨大地震などに備える全国の地方紙・放送局と共催して震災教訓を共有する仕掛けも8回になり、回を重ねている。

 

風化にあらがうため、4月には新規プロジェクト「311『伝える/備える』次世代塾」を開講する。学生らを対象に、被災現場の現実と向き合い、教訓を学ぶ内容の通年講座を組む。大学などと連携し、震災伝承の担い手を長く育てていくことをめざす。

 

産学官民の関係団体、報道機関の連携組織「みやぎ防災・減災円卓会議」(70団体、130人登録)の発足にも関わり、事務局として教訓発信強化の呼び掛けにも力を入れている。

 

全ては試行錯誤の過程にあるが、自らの役割を限定して捉えず、紙面や番組を超えた次元であらゆる機能を総動員し、地域、全国、世界への働き掛けを重ねていく覚悟が根底にはある。

 

災害犠牲を繰り返さないために何ができるか。七回忌に改めて被災地新聞社の責務が問われている。

 

(たけだ・しんいち 防災・教育室長)

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