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私の8月15日 学童疎開先での絶叫(志甫 溥)2015年8月

ドシンともガチャンとも聞こえた。長野の集団疎開先の広い部屋に置かれたラジオ(最後まで内容は不明)を正座してみつめていた僕ら疎開学童がふりかえって見た時、ベテランの先生が、後方の柱に激突してメガネを飛ばし、「くやしい!」と叫んでくずれ折れていた。僕らの間に少しずつ「戦争に負けた」という感覚がしみわたり、異様な空気がただよった。

 

突然、絶叫が広間を突き刺した。1年生のA子ちゃんが、お姉さんたちがなだめても泣き叫び続けていた。そして、涙もなく穏やかな顔つきをくずさなかった先生が一人おられた。ずっと後になって「ああよかった、と思っていた」と言われたことが心に残る。公民館の庭に乱れ咲くコスモスの色とともに。

 

(TBS出身 79歳)

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