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STUKのホスピタリティ(石川 洋)2013年1月

フィンランド版の原子力規制委員会である、放射線・原子力安全センターは今回の取材の目玉の一つ。フィンランド語の頭文字をとりSTUK(ストゥーク)とよばれている。

 

バルヨランタ所長の会見と事務所の見学が予定されていた。取材時間は2時間30分あり、会見中心で時間は十分あると思っていた。ところが、到着後、所長の会見以外にも3人の部長によるブリーフと研究所見学がアレンジされていることが分かった。事務所見学とは、研究所をみることだった。STUKが研究所機能をもつことは、知らなかった。日本と同じような形態を想像していたので、ビックリした。

 

先方の予定表には通訳時間が加味されていなかった。これでは、会見・ブリーフと質疑応答だけで予定時間を使い果たしてしまう。急きょ広報部長とプログラムを再調整することにした。ブリーフ部分は所長が概要を紹介することで、折り合いがついた。それでも研究所見学に十分な時間がとれるだろうか。30分あれば、2班に分かれてなんとかなるだろうと考えた。

 

所長の会見中に、どこをみたらよいかを決めてくれ、という。自分たちが用意していたものでよいかどうかを見極めてほしいということのようだ。

 

まず、同じビル内にある「緊急準備センター」に案内される。女性部長から、センターの概要を手短に説明してもらう。とにかく、分かりやすく、写真になるところを優先してほしい、と伝える。国内とロシア、スウェーデンなど近隣諸国の原発から出る放射線物質の国内観測所のコンピュータ画面を見せられる。リアルタイムでチェックしており、非常時には首相の許可なしに、STUKの独自判断でIAEAや当該国に情報を提供することができる、という。内容といい、モニター画面の絵がらといい申し分なし。この取材をすぐに決めた。

 

次に1階下の、研究所へ向かう。ここでも女性担当者が応対してくれる。所長から360人の職員がいるとの説明があったが、女性の比率は確認しなかった。帰国後、交換した名刺を数えると、男性4枚、女性3枚だった。

 

50ほどの研究室があり、見せたいところは数多くありそうな雰囲気。2、3推薦してほしいとお願いする。すぐに2つの研究室に案内してくれた。一つは、原発周辺で採集した植物や海産物を石灰粉末にし、ガンマ線量を測定する装置がある部屋。もう一つは、車に搭載したホールボディカウンター装置が置いてある部屋。これは原発で働く労働者や近隣住民などに出前検査ができるように工夫したものという。二つとも分かりやすく、みんなの賛同を得られるだろう、と取材をお願いすることにした。

 

所長の会見後、参加者に見学内容を説明し、2班にわかれて回った。所長の会見があくまでメーンなので、施設見学は二の次ではあったが、STUKの全体像を把握する上では、短時間でも役立ったと思う。

 

スタッフは変更にもテキパキと快く応対してくれた。この機会に自分たちのやっていることを見てほしいとの熱意が伝わってきた。東電福島第一原発事故を体験した国への思いもあったかもしれない。

 

STUKを出たのは、午後7時。予定時間を30分超えていた。遅くまで協力してくれたことに感謝の念をこめて女性広報担当者に、「残業代はもらえますよね」と軽口をたたいたら、「今日はこのためにみんな残っているのだから」と笑顔で返された。

 

(日本記者クラブ企画部長)

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