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第10回(フィンランド・デンマーク)エネルギー政策(2013年1月) の記事一覧に戻る

「風」を集めて デンマークと北海道の縁(川嶋 信義)2013年1月

 

北海道の日本海沿岸は、冬になると西から強い風が連日のように吹きつけます。

 

道南・渡島半島西部の檜山地方では、これを「たば風」「たま風」と呼びます。語源は定まっていないようですが、「風が束になって吹いてくるから」という説もあります。函館在住の作家、宇江佐真理さんにも、松前藩を題材にした「たば風」という連作小説があります。

 

今回の北欧取材後、所用でそんな町のひとつであるせたな町を訪れました。平成の大合併で3つの町が一緒になったものの、それでも人口9000人、農漁業が中心の小さな町です。

ここでは2基の洋上風力発電機が稼働中です。地元町議と話しているうちに、デンマークで何度も耳にした風力発電機メーカー「ヴェスタス」の名前が出てきました。遠く離れたデンマークと北海道の、「風」を通じた縁を感じました。

 

取材団への参加を決めた最大の動機は、日程にフィンランドの「オンカロ」取材が入っていたことでした。ただ、オンカロ自体はすでに本紙で紹介済みです。

 

では、自分は何を取り上げるべきか。そんな悩みのさなかに見たのが、コペンハーゲンの洋上風力発電パークです。

 

船の上から、対岸のスウェーデンの原発建屋が見えました。「北海道の函館と青森県の大間原発の関係に似ている」。この風車と原発の風景が、国として原発をつくらないと決め、同時に地球温暖化対策を進めるために、風力をはじめとする再生可能エネルギーでエネルギー需要をまかなおうとしているデンマークの姿勢を、強く印象づけました。ロラン島での取材でその印象はより濃くなりました。

 

帰国後に決定した2013年度政府予算案には、潜在能力が600万キロワットとされる道北の風力を生かす送電網整備に向けた実証事業費が盛り込まれました。地元の期待は高まっています。

 

人口がデンマークとほぼ同じで、風力に加え地熱や水力にも恵まれ、太陽光発電の適地でもある北海道は、原発抜きのエネルギー供給基地になり得る。それを体得できたことが、北海道で取材、執筆活動をしている北海道新聞の記者としての最大の成果と受け止めています。

 

(北海道新聞社論説委員)

 
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