ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第10回(フィンランド・デンマーク)エネルギー政策(2013年1月) の記事一覧に戻る

日本と比較しながら北欧を駆ける(団長:脇 祐三)2013年1月


これほど多くの人が取材団に参加したことに、まず驚いた。科学、社会、経済、外信部系とさまざまで、地方の記者も多い。これから原子力をどう位置付けるか、再生可能エネルギーにどのくらいの可能性があるか。取材団の構成自体が、エネルギー問題への幅広い関心を示す。

 

毎日、朝から晩まで何カ所の現場を訪れ何人の人に話を聞いたのか、取材メモをめくっても正確な数がわからない。それほど過密な日程だったが、誰に会っても取材団から質問が途切れることはなかった。

 

日本ではこういう問題があるが、ここではどうか――。原子力施設を受け入れた自治体の考えと住民の反応、福島の原発事故後の政策変更の有無、風力発電への投資と収益の具体的な額など、質問は限りない。それぞれの記者が自分の関心事に沿って、日本と比較しながら北欧を駆け巡る取材の旅だった。そう実感する。

 

フィンランドには地震がほとんどなく、放射線の人体への影響をチェックする専門組織「STUK」が原発などの監督権限を持つ。それが6割近い国民の原子力支持につながっている。林業や製紙業が盛んで、樹皮や木の根など木質のバイオマス燃料を導入しやすい利点もある。

 

平たんな島々と半島の国、デンマークには、風力発電の適地が多い。製造業が少ない産業構造や、海面の上昇を招く気候変動への国民の強い懸念も、風力拡大の背景だ。

 

北欧諸国は共同電力市場をつくって電力をやりとりし、ノルウェーやスウェーデンの巨大な水力発電の能力が、風力依存を高めるデンマークのバックアップ機能を果たす。国境を超えて送電網が結ばれ、集団でエネルギー安全保障を追求できる欧州の強みも、あらためて認識できた。

 

地方の取材が多く、訪問先の自治体で町おこしの試みや悩みを聞くことができたのも収穫の一つ。造船所の跡地にできた発電用風車の工場が国外に移り、工場誘致に頼る経済振興が挫折した後、水素燃料や風力・波力併用発電などの実証実験の場として知名度を高めたロラン島(デンマーク)の例などは、興味深い。

 

今回の取材団には、みんなで街に繰り出すような余裕はなかったが、ハードな日程を乗り切り全員元気に帰国した。帰国直後に始まった東奥日報とデーリー東北の連載企画、東京・中日新聞の社説の下の連載記事をはじめ、情報発信の量も過去の取材団をしのぐ。原子力に対するスタンスに違いはあっても、取材・報道の意欲は同じである。参加したみなさんの熱意に敬意を表したい。

 

(日本経済新聞社コラムニスト)

 

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