ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第7回(カンボジア、タイ、ラオス)回廊が結ぶメコン流域圏(2008年2月) の記事一覧に戻る

ラオスで考えた”豊かさ”(寺澤 敏行)2008年2月

 短いスケジュールながら、タイ、カンボジア、ラオス、3カ国それぞれで放送につなぐ収穫と個人的にも深い思い出を残すことができた。カンボジアでは訪問先のミネラルウオーター会社の取り組みを伝えるリポート、タイではサマック首相のタクシン発言を取り上げたニュース、ラオスではブアソーン首相の異常気象を訴える発言をニュースにまとめた。さらに、我々の訪問に合わせるかのように、タイのタクシン前首相が1年5カ月ぶりに帰国。タクシンフィーバーに沸くバンコクで、急きょ取材団を抜けて、最高裁判所に入廷するタクシンを取材。ラジオ生リポートをバンコク支局から伝えるなど、本当に実りのある滞在だった。アレンジしてくださった主催側の皆様、個性溢れる一行の面々に心から感謝している。

  3カ国で一番良かったのはラオスだ。なぜか。町がこじんまりとしている、高い建物がない、アスファルトではない土の道路が残っている、なにもせずぼおっとしている人が結構いて、それが許される空気がある。他にも理由はあるだろう。

 ラオス大使が私の感想を代弁するかのように、「メコン地域で最も目立たない国ですが、ラオスが一番いいという日本人が多い」とおっしゃっていた。さらに、「メコン地域での後発国として経済発展は必要だが、ラオスらしさを残せるようにしたい」ともおっしゃっていた。ラオスらしさとは何か。それを、同じテーブルにいた某女性現地調査員に振り向け、「今ののどかなラオスがラオスらしさなのであって、今のまま変わらないことを大切にすべきでは」と挑発してみた。彼女は「快適さを知ったから懐かしく思うだけで、貧しい暮らしに生きる人々は豊かになりたがるもの」と反論した。

 おそらく、数年後、ラオスはすっかり変わるだろう。変わってしまうだろう。グローバリズムと資本主義の大波から逃れられる地域はない。

 言語をとってもわかるように、東南アジアは「多様性」が売りだ。それが、ホテルに入ると、どこの国に来ているのかわからなくなってしまう。同じようなベッドとバスタブにつかり、ヤフージャパンを見ている自分がいる。ラオスにもその波は押し寄せている。

 メコン地域に存在感を示したい日本はどうすればよいのだろう。資本と数の力にものをいわせた、まるでブルドーザーのような勢いをもった中国が、アジアの多様性をモノトーンに変えようとしている。経済発展を果たした日本は、中国をうまくなだめながら、多様で心豊かな暮らしとはこういうものだと、胸を張って示すべきなのではないか。

 決して心豊かとは言えない自分が、仕事の時間を気にしながら、今、マクドナルドで100円バーガーをかじりながら、この文章を書いている。

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