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第5回(韓国)与野党の大統領候補と会見(2006年2月) の記事一覧に戻る

玄人受けする政治家(清宮 克良)2009年9月

静かな語り口だが時折、鋭い眼光で見つめる。激しい民主化闘争を戦い抜いた与党ウリ党きってのリベラル派で前保健福祉相の金槿泰(キム・グンテ)氏(59)とのインタビューは、日本での安保闘争を知らない世代からすれば、若干の負い目と緊張を伴うものだった。2月15日夜、韓国の全州市郊外の全州韓屋生活体験館で、訪韓団の若宮啓文団長(朝日新聞論説主幹)の補佐として、新潟日報の大塚清一郎記者とともにインタビューに立ち会った。
今回の訪韓団が記者会見やインタビューをした「ポスト盧武鉉」候補の4人は、いずれも小泉純一郎首相の靖国神社参拝をはじめ歴史認識問題には厳しい見解を表明したが、北朝鮮による日本人拉致問題についてはおおむね被害者家族の心情を理解する発言が多かった。
だが、金槿泰氏だけは違った。
「拉致の被害者を過小評価しているわけではないが、人権問題として分離してくれればいいと思う。韓国では日本の植民地時代に数多くの人たちが強制的に連れられ、戦争で亡くなった。しかし、彼らの名簿はきちんと整理されていない。韓国の人たちは、日本が行っている謝罪を疑っている。これは(拉致問題よりも)もっと大規模な人権問題であり、昔の歴史問題を解決できないことにもつながっている」
強烈な自尊心を感じさせる発言は、民主化闘争で5年の刑務所暮らし、7年の逃亡生活という金槿泰氏の過酷な経歴ゆえに重みを増す。
こうした自身の過去を振り返りつつ今の政治状況については「当時は暴力によって決定されていたが、今は国民によって決定される。ここまで韓国が成長したと私は考えている」と静かだが力強く語った。
同じウリ党のライバルで、ニュースキャスター出身の鄭東泳(チョン・ドンヨン)前統一相に比べ、確かに玄人受けする政治家である。しかし、2002年大統領選で、盧武鉉大統領が当選する原動力になった若者のパワーをひきつけることができるかどうかは疑問だ。ただ、偽メール問題で露呈した日本政治の軽さを目にするにつけ、いぶし銀の金槿泰氏はやはり気になる存在である。

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