ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第5回(韓国)与野党の大統領候補と会見(2006年2月) の記事一覧に戻る

韓国人は政治好き(小林 一博)2009年9月

 「いまこの会場に、日本からの取材団が来ています!」
  われわれ取材団が、全羅北道・全州でウリ党の党首選出の立会演説会を取材した際、冒頭で紹介され、大きな拍手を受けたのには驚いた。
 とくに政治に熱くなる全羅道の支持者にとって、「わざわざ日本から取材にそんなにこの集まりが注目されているのか」と、歓迎すべきことだったに違いない。はからずも雰囲気盛り上げに一役買った格好だ。
 それにしても、会場はにぎやかだった。各候補の支持者は、一かたまりになって、候補者の登場、演説の節目には、カネや太鼓の鳴り物入りではやす。候補者名を書いた細長い風船を打ち鳴らす一団もいた。そのうえ、スピーカーのボリュームを上げ、候補者は絶叫する。会場から出てバスに乗ってもしばらく、耳鳴りが止まらなかった。
 韓国人は政治好きだ。政治が生活の隅々にまで影響を及ぼす単層社会のため、関心を持たざるを得ないためだろう。かつて、企業にとっては大統領が代わることで、銀行融資が受けられるかどうかにまで響いた時代があった。官庁はもちろん、公団、公社などの幹部の人事が代わるのは当然だ。政府系の新聞、テレビ局では、大統領と同じ高校や地方の出身者が、突然偉くなったりした。
 昨年末、韓国は「ES細胞」の捏造で大揺れに揺れた。世界に先駆けた最先端技術、ノーベル賞ものと、政府が音頭取りになって、この研究を支援した。これも、あらゆる分野に政治が関係を持つ一例だ。
 ソウルで会った新聞記者は、この件で「韓国も複層社会になれば、もう少し、社会が安定する」と分析した。ある出来事があると、社会全体が揺れ動くというのは、確かに不安定だ。
 全州の後、浦項で世界最大の製鉄メーカー「ポスコ」、蔚山で現代自動車の工場を見学した。 目新しいものではないが、韓国の経済発展の柱になった産業だ。いまや韓国はGDPで世界11位にのし上がった。豊かさは人びとの心に余裕を生むはずだ。同時に、政治以外の分野への関心も広がるはずだ。
 実際に、かつて「反日」となれば、国中が熱くなったが、最近は一部を除いて極めて冷静だ。豊かさがその一因のような気がする。果たして、韓国人の政治好きはどうなるか。蔚山の広い埠頭を埋めたおびただしい自動車をみながら、こんなことを考えた。

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