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第5回(韓国)与野党の大統領候補と会見(2006年2月) の記事一覧に戻る

ニュースが飛び出した会見(大塚 清一郎)2009年9月

 「今年、南北首脳会談開催で合意というのはニュースですよね」。韓国の与党ウリ党の実力者、鄭東泳前統一相とのインタビューを終え、昼食を取る直前、清宮克良副団長(毎日新聞)が少し眉間にしわを寄せ、切り出した。「そうだね。正確に訳してもらおう」。若宮啓文団長(朝日新聞)が、通訳の朝日新聞ソウル支局助手の韓承奉さんを促した。私を含め日本人記者3人は、BGMの韓国音楽が大音響でかかる全州の食堂で、運ばれてきた食事を横目にメモ合わせに励んだ。
  私たち三人と韓さんは、訪問4日目の2月15日、本隊と離れ、別働隊として一足早く全州入りした。直前にアポイントが取れた鄭氏との面談のためだ。午前11時の予定に1時間近く遅れて現れた鄭氏は黒々とした髪に大きな目が特徴の美男子。紺色スーツに派手な赤いネクタイ姿で、ニュースキャスター出身らしく身振り手振りを交え、私たちの質問に堂々と、かつ流ちょうに答えた。
  若宮団長が南北関係の見通しについて聞くと、鄭氏は身を乗り出し「2006年に南北首脳会談が行われると思う。開催する原則は既に合意されている。時期の問題だけが残っている」と語り始めた。続けて「南北首脳会談と、小泉首相と金正日委員長の第三次日朝首脳会談が時期的に組み合わされれば、東アジア地域の核問題解決や平和体制樹立に役立つ」と一気に語り「重要な歴史的進展がある年になると期待する」と締めた。二つの首脳会談が今年、相次いで実現する? 思わず耳を疑った。
  重ねて若宮団長が「南北首脳会談は2006年のいつ? 日朝首脳会談は現実的にありうるのか?」と尋ねると、鄭氏は「南北首脳会談は既に約束されており、その約束の有効も確認されている。(時期の)決断だけが残る。日朝首脳会談は互いに必要と感じている。適切な時期の開催を希望する」と繰り返した。
  清宮副団長がたたみかけた。「南北首脳会談が今年開かれる根拠は」。鄭氏は、場所にはこだわらない、とした上で、「2005年6月17日、平壌で金正日と会ったとき、首脳会談をしようということに合意した。私が『さあ、早くしましょう』と言うと金正日は『よし、しよう』と応じた。私は金正日との合意を重く受け止めている」と具体的なやりとりまで挙げ説明した。
  慌ただしいメモ合わせにより、鄭氏の発言が明確になった。複数社のソウル支局に聞くと「記事にした方がよい」との助言。夕方には本隊が全州に着く。時間がない。ホテルに行き、メンバー配布用のメモ作成を急いだ。このメモをもとに共同通信が配信、各社も記事化した。個人的にも新潟日報としては最も関心のある拉致問題について聞くことができたのはよかった。「解決には時間が必要」という見解だったが、いろんな意味で記憶に残るインタビューとなった。
  帰国後の2月18日、鄭氏は党議長に当選した。願わくは、鄭氏を含め、今回私たちが会った政治家から、次期大統領が出てほしい。
  最後になりましたが、訪韓団の先輩方のご指導に感謝申しあげます。

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