ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


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似通った生活感覚に(田中 龍男)2009年9月

「BK会報」(2000年7月10日号)から転載

 韓国には80年代に取材で幾度か訪れたことがありましたが、その後10年以上も空白があり、昨年久しぶりにソウルを訪れてその変貌ぶりに驚きました。それだけに今回の視察は大変に興味深いものとなり、ご苦労をいただいた日本記者クラブや幹事の方々にあらためて御礼を申しあげます。  “韓流”の信奉者から散々聞かされていた通り、韓国社会はソウル市はもちろん、かなり地方の都市に至るまで発展が目覚ましく、何よりも人々の表情や物腰の明るさ穏やかさが印象的でした。女性達は華やかで美しくなり(整形手術の大流行を割り引いても)、男達も皆ドラマの主人公のように優しい目をしています(昔は皆いかつく、目を吊り上げていた記憶があります)。
  国を挙げて進めてきた経済発展によるゆとりや自信、そして五輪やW杯など国際イベントを次々と成功させてきたことも大きいように思います。内政の最大課題は「不況」と「格差」と聞きましたが、それも経済や社会が発展すればこその“成長痛”とも見え、メディアが言うほど深刻には感じられませんでした。・・・と評価が甘いのは、おそらく私が見た80年代のこの国が極めて厳しく張り詰めたものだったからでしょう。
  その頃すでに「南進は無い」と言われていましたが、それでも軍事的な緊張は段違いで、破壊工作に備え国中どこにでも兵士が立っていました。劇的な民主化宣言。光州事件の糾弾。出馬した金大中氏は寒風の中で2時間叫び続け、応える10万人の熱気も凄まじいものでした(今回のウリ党大会も音響レベルだけは負けていませんでしたが)。歴史博物館の蝋人形の日本兵の形相もなかなかでしたし、外務省の役人でも少し酒が入ると面罵あり演歌(当時は御法度)の熱唱ありで、誰も彼も感情の起伏を隠さず、国の不運を嘆き民族の自負を語って身もだえていました。
  そうした韓国は早くも“過去のもの”になりつつあるのでしょうか。今の人達、とりわけ若者や壮年層はずっとスマートでバランス感覚にも長けているようです。仕事柄、どこでもテレビをよく観ますが、今の韓国のテレビ番組と日本の番組との違いを説明することが難しく、それだけ人々の生活感覚や価値観が近似したことを示しています。「北との競争には勝った。南北統一は必ずする。しかしそれは今の豊かさを失わない範囲内でゆっくりと、それが今の韓国人の本音です」という識者の解説がその通りに受け止められました。
  ロンドンの特派員をしていて、ヨーロッパのことを羨ましいと思ったのは、どの国も同じようなサイズ、レベルの国々にかこまれているため、政治からサッカーチームの実力まで何事につけ互いを比較考量し、独り善がりが通じない仕掛けや気風に満ちていることでした。その点、私達の方はそうした良き隣人が長く不在で、唯一の候補者の”お隣り”とは不幸な行き掛かりや国情の違いが大き過ぎました。しかし、これからは違うと感じました。政治的にはなお解決すべき懸案が多く、永く対峙したままのテーマもあろうかと思いますが、人々の感覚が極めて似通ってきたことは、新しい日韓のために何よりも明るい材料のように感じました。       

PS:これを書いている最中に世界野球で日韓チームの競り合いが演じられ、ますます意を強くしたところです。

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