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第5回(韓国)与野党の大統領候補と会見(2006年2月) の記事一覧に戻る

肌で感じた政治の熱気(粕谷 賢之)2009年9月

 「ポスト盧武鉉」の候補を含む韓国政治家との会見という、今回の取材団の目的は、私にとって、とても魅力的なものだった。ふと思うと「政治」という取材フィールドを掲げながら、地理的に最も近い国の政治家と言葉を交わす機会が、日ごろないのも奇妙なことだ。日本のプレスと韓国政界の距離がもっと縮まれば、日本のメディアの伝え方に、少なからぬ変化があるのかもしれない。
  ともあれ、韓国政界の熱気は、ウリ党代表選の立会演説会で、肌で感じることができたが、勝利した鄭東泳氏、ソウル市庁舎で穏やかに語った李明博市長、野党ハンナラ党を率いる朴槿恵代表、いずれも政権奪取に向けた静かな闘志は、なみなみならぬものを感じた。同時に彼(女)らの関心は、すでに「ポスト小泉」に向いていた。これはとりもなおさず、日本の次期政権が歴史問題をどう位置づけ、「靖国神社参拝」についてどういうスタンスをとるか、という問題の表裏であり、「仮に小泉首相と同様のスタンスを維持するなら、事態はさらに深刻化することになる」とのメッセージともとれた。
  旧知の日本研究専門家は、そうした観点から「韓国では福田待望論も根強い」と分析した。矛先は日本のメディアにもむいていた。「なぜ小泉首相の靖国神社参拝が、もっと強く批判されないのか」と。当然、自民党総裁選では、大きな争点のひとつとなるであろうこのテーマをメディアとして、どう伝えていくか、日本の国内世論も二分されるなかで、われわれ自身も問われることになる。
  一方で、「アメリカ」「北朝鮮」に対するスタンスの違いが、双方の距離感を広げていることをも実感させた。緊密な対米関係を構築し、拉致問題を抱え北朝鮮と厳しく対峙する日本と、対照的な立場の韓国盧武鉉政権。朴ハンナラ党代表の「盧武鉉流の無原則な対北政策が、韓国内の深刻な亀裂を生じさせた」との指摘は、説得力をもった。
  しかし朴代表も政権奪取への道には、二つ課題を抱えるのだという。ひとつは、女性であること、もうひとつはハンナラ党の支持率が4割で頭打ちになることだ、と。来年の大統領選で政権交代は現実のものとなるのか。5月31日の統一地方選は、その行方を占うものになる。
  今年の日本、来年の韓国、それぞれの国民が選ぶ次期政権がどのような関係構築をめざしていくのか。ソウルや釜山の街中を日本人が闊歩してもなんの違和感もなく、日本でヨン様や冬のソナタが多くの人々の心を捉える昨今だが、指導層の世代が代わるなら、いつかは関係の改善も・・・と考えるのは避けなければならない。
  「日韓のパートナーシップ」という言葉をまた両首脳から聞くことができるのは、いつのことになるのか。過去を乗り越えなければ、東アジア共同体建設への展望も、また両国関係の新たなステージを切り開くこともできない、という原点に戻って思考することが求められていることを、改めて双方の指導者が胸に刻むべきだ。

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