ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第5回(韓国)与野党の大統領候補と会見(2006年2月) の記事一覧に戻る

幻のカニ料理を求めて(川村 晃司)2009年9月

 韓国へ出発前に知人や同僚から、「チャングムの誓い」の熱心な視聴者であった私の取材目的は韓国料理が主であるに違いないとひやかされた。確かにこの人気韓国TVドラマの中で私が強く印象に残っている科白は料理の腕を競う女官、チャングムに対して「蟹の醤油漬けを使ったビビンバか。うーんまさに絶品じゃ」と皇太后が食しながら満足そうに話す場面だ。この「蟹の醤油漬け」は、ハングルでは「カンジャン、ケジャン」と呼ぶことを韓国通から教わってソウル入りしたのだが。
  韓国は食文化の交流よりも熱い政治の季節に入っていた。最初に会った野党ハンナラ党の代表、パク・クネ氏。小学校4年のときに父のパク・チョンヒ元大統領(79年に暗殺された)と青瓦台に入って以来、母も射殺される中で政治の非情さに耐えてきた女性。主張は現政権に対して厳しいものの、おだやかな話しぶりと、しなやかな動作からは米国で初の女性大統領(例えばヒラリー夫人)が誕生するよりも、日本で初の女性首相誕生よりも、韓国での女性大統領就任のニュースの方が早いのではないかと感じた。この想いは、3月9日、日本記者クラブでの来日会見で再会したときに更に強まった。メディア政治と選挙の関係は韓国も進行中だ。
  バン・キブン外交通商相の会見ではバン氏が国連事務総長に立候補した直後ということで、「事務総長選に日本の支持を取り付けたい」と求めたことは、時差のない日本のニュースとして夕方ニュース終了直前、久し振りに勧進帳で原稿を送る。が、受けた新人は勧進と肝心をとり違えていたようだ。
  ソウルを離れ、サムスン人材研修所で聞いた話はサムスンの躍進に納得が得られた。人事評価、報酬制度に日本式と米国式経営を組み合わせたもので、「経営は理論ではなく体験であり、勘である」という教訓を柱に据えている。その結果、純益は年間1兆2千億円で同民族、北朝鮮の国家予算に匹敵するという。
  南北関係については、全州でウリ党議長候補の合同演説会取材のおり、チョン・ドンヨン氏が(その後ウリ党議長に選出)、昨年6月にピョンヤンで金正日総書記と会談時の合意を披露し、「年内に南北首脳会談が開催されるだろう」というまことにタイミングの良いニュースを提供してくれた。これは、金総書記が誕生日を迎える前日であったことを意識しての発言だったかもしれない。
  このように充実した旅の最終地、プサンに私は最後の望みを託した。チャングムの誓い―カンジャン、ケジャンへの挑戦―だ。打ち上げの店は新鮮な魚料理中心であった。
  ホテルに戻るや、東京新聞の小林さんらと数人で夜の屋台へと繰り出した。しかし有名屋台「ペニンシュラ」にも幻の蟹はなかった。焼酎を飲み交わすうち、どこからか「韓国では政治家よりも民衆のほうが政治をよく知っている」という声が聞こえてきた。その時、今回の取材団の中でも精力的に記事を書き、取材をしてきた新潟日報の大塚記者が、突然私の肩にどっと倒れこんできた。お疲れさま。
  私の「カンジャン、ケジャン」を求める旅は、次回こそ実現したい。それは南北首脳会談取材のときになるのだろうか。

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