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1180万人分の1(石川 洋)2009年9月

 ソウルのガイドの李さんと通訳の金さんが、「王の男」という韓国映画が大ヒット中で社会現象になっていると言う。「王の男」というのは、王に寵愛された男の話で、同性愛がテーマにもなっているらしい。側近を自分のお気に入りだけでかためた王の話で、盧武鉉大統領の人材登用に似ているとの見方もあるという。なかなか面白そうである。そこで、散歩のついでに宿泊先のホテルに隣接する「ロッテシネマ」というマルチプレックス(複合型映画館)に寄ってみた。「王の男」は上映していなかったが、最終回が午後9時35分から始まる映画もあり、夜の予定いかんでは時間に間に合うことがわかった。
  ソウル最終日。午後9時30分にホテル出発。南大門方面の繁華街で映画館を見つけることにする。だめなら、ロッテシネマで我慢すればよい。目当ては、それらしいポスター。ロッテシネマを過ぎ、地下道をくぐり、南大門方面へ50メートルほど行ったところにマルチプレックスを見つける。目当てのポスターもある。切符売り場の前に短い列ができており、チラシで時間を確かめると「王の男」の最終回は午後9時45分からとある。
  列に加わり、切符の買い方を前の人を見ながら観察する。完全指定席制で、希望の席を選べるらしい。韓国語がまったく分からない人が字幕のない韓国映画を観ることはないだろうから、韓国語で聞かれたらお手上げである。手持ちを調べると15000ウォン(約1700円)ほどしかない。足りるだろうか。そうこうするうちに、自分の番。英語で「ワン・ティケット、キングス・マン」と注文する。若い男の売り子は表情も変えず、ナンタラカンタラ言いながら、切符をくれる。後で考えれば、席の説明だと思われる。英語で話したおかげか、料金は「セブン・サウザンド」と応じてくれる。10000ウォン札を渡す。安い。日本円で900円ほどである。
  切符は買えたが、上映館を見つけ、席にたどり着くまで安心できない。ビルに入りエレベーターに駆け込む。後から乗ってきた若者カップルに「キングス・マン」はどこかと英語で尋ねる。オレに続けといわんばかりに、男の子がエレベーターからエスカレ-ターへと誘導してくれる。ビルの最上階にある劇場に到着。切符切りの若い男に席はどこかとまた英語できく。間髪を入れず英語で答えてくれる。予告編がすでに始まっており場内は暗いものの、なんとか席を探し当てる。ここまでで、ほとんどエネルギーを使い果たす。目が馴れあたりを見回すと、思ったより小規模で、若者中心で半分ほどうまっている様子。終演が深夜零時、火曜日というのにこの入りである。
  映画は40分ほどで降参。李朝時代と思われる城下町を舞台に、二人の大道芸人をめぐり話は進む。若いほうの芸人の妖しい美しさから話の展開は察しがついたが、登場人物の顔の表情や動きを目で追うだけで疲れてしまった。
 3月6日、朝日新聞(夕刊)のソウル特派員電で「王の男」の観客動員数が前日に1180万人を超え、これまでの記録を塗り替えたと写真入りで紹介されていた。そのうちの一人は自分だったのです。

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