会見リポート
2025年04月11日
14:00 〜 15:30
10階ホール
「中国で何が起きているのか」(26) 倉澤治雄・元日本テレビ北京支局長、科学ジャーナリスト
会見メモ
中国新興のAI企業、ディープシークが世界に衝撃を与えている。米国が先端半導体などハイテク製品の対中輸出規制を強めるなか、中国企業はなぜこれだけ高度な生成AIをつくれたのか。中国は宇宙開発でも米国を猛追し、月面の有人探査を目指している。元日本テレビ北京支局長で、科学ジャーナリストの倉澤治雄さんが中国科学技術の最新事情等について話した。
司会 日本記者クラブ企画委員 高橋哲史(日本経済新聞社)
会見リポート
米中デカップリングは不可能
八牧 浩行 (時事通信出身)
次代の覇権争いを展開する米中。日々激しさを増しているが、月面・火星探査、AI(人工知能)、量子科学、原子力開発など科学技術分野について、中国の勢いが多くの分野で米国を凌駕しつつある実態が示された。科学技術予算、研究者数、大学院人材など豊富なデータや画像に基づき解明。米国の大学や研究機関の多くは中国人に大きく依存しており、「科学技術分野での米中デカップリングはありえない」と断じた。
目を引いたのは中国の原発事情。現在運転中の原発は57基と米国に次ぐが、建設中の34基が稼働すれば2035年には世界一に。さらに新開発の「第4世代原子炉」へのシフトが進み、2050年までに100万kW級・400基がつくられる。多くが内陸部に立地しているため、水資源確保や事故時の汚染などのリスクもあり、反対運動も起きているという。
中国は「ゼロから一(いち)をつくる技術」を目指し、米国などでの研究者も含めれば、中国人のノーベル賞受賞者が続出すると予想。厳しい半導体輸出規制の中で高性能を実現した汎用AI・ディープシークを高く評価した。
一方、日本の科学技術の劣後を憂慮、「今後どう戦略を立てていくか」と提起した。24年に国立大学85校の運営費交付金が約1兆700億円に減額されたが、中国の研究 資金は膨大でファーウェイ1社だけで 2兆円を超えていると強調した。
倉澤氏が動画で示したのはAIを駆使した自律型ロボットの脅威。米中がここでも競う中、人間の判断を超えるため軍事転用を危惧した。米バイデン大統領時代に米中が核兵器の使用に関してAI使用を互いに止める協定を締結したことを紹介。「あまり注目されなかったが重要な取り決め」と訴え、「人類の成果である新しい科学技術を人間がどう使うか。倫理・道徳、人間性が重要だ」と強調した。
激しく対立する米中だが、早晩手を組むこともありうるとの情報も披露。両国の動向から目を離せない。
ゲスト / Guest
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倉澤治雄 / Haruo KURASAWA
元日本テレビ北京支局長、科学ジャーナリスト
研究テーマ:中国で何が起きているのか
研究会回数:26