会見リポート
2025年04月22日
14:00 〜 15:30
9階会見場
「戦後80年を問う」(4) 泉徳治・元最高裁判事
会見メモ
2002年11月から2009年1月まで最高裁判事を務めた泉徳治さんが、司法の中でも最高裁判所の戦後80年をテーマに登壇。最高裁判所がどのように発足したのか、機構改革問題や1960年代に司法が直面した危機、司法制度改革の流れ、今後の課題などについて話した。
司会 井田香奈子 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)
会見リポート
「司法は世界に目を向けよ」
豊 秀一 (朝日新聞社編集委員)
「この改革が実現していたら最高裁はいまどんな姿になっていたのか、示唆に富みます」。最高裁の出発当時から1960年代末の「司法の危機」、2000年代初頭の司法制度改革などを駆け足で振り返りながら、泉さんが強調したのは、1950年代の最高裁の機構改革問題だった。
刑事裁判の遅れなどが問題化したために1957年3月、内閣が裁判所法改正案を国会に提出した。最高裁の裁判官を15人から9人に減らし、憲法違反や判例変更などの重要事件に専念させ、通常の刑事や民事の事件は最高裁の下に置く6つの小法廷で扱うという内容だった。「9人の裁判官が1年中、憲法問題だけに取り組むことができる案でした」
法案は衆院解散で廃案になり、改革の機運はしぼんでいった。「しかし、今も抱える問題を浮き彫りにしている」と泉さん。
「衆院選挙区で2倍以上の投票価値の格差を合憲としている」「被告人が否認すると保釈をほぼ認めないなど刑事手続きの国際水準化に消極的」「夫婦同氏制を合憲としている」。具体的ケースを挙げて泉さんは、最高裁は違憲審査を活性化させ、人権を制約する立法などを監視する役割を果たすべきだと強調した。
司法の場で国際人権条約を適用できるようにすることも課題に挙げた。「国際人権条約は上告理由にあたらないとして判決で適用せず、人権条約はあってなきがごとし」
泉さんは、①訴訟法を改正して条約違反を上告理由とする②(人権を侵害された個人や集団が国連機関に直接救済を求めることができる)「個人通報制度」を採用する――ことで、「裁判官が国際的な人権基準に目を向けるようになる」と語った。
「この二つを実現するのが、日本でいま一番大切」という泉さんから伝わってきたのは、戦後80年を迎えた司法は、もっと世界に目を向けよ、というメッセージだった。
ゲスト / Guest
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泉徳治 / Tokuji IZUMI
元最高裁判所判事
研究テーマ:戦後80年を問う
研究会回数:4