2024年12月02日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「トランプ2.0」(1) ジャーナリスト・思想史家  会田弘継さん

会見メモ

来年1月に第2期トランプ政権が発足するのを前に新たなシリーズとして「トランプ2.0」を始めた。

この第1回としてジャーナリストで思想史家の会田弘継さんが登壇。トランプはなぜ圧勝し、ハリスはなぜ負けたのか、「2016年政変」をもたらした背景、その中で日本はどうすべきなのか――について、経済、政治、思想史などさまざまな要因が絡み合い変化していった米国のこの間の流れから解説した。

「1980年代にニューディール型の民主党は変貌を遂げ、ミニ共和党になった。企業と結びつく政党になり労働者を見捨てた」「いま起きているのは左右の対立ではなく階級闘争」「疎外された人々が絶望し、トランプに票をいれている」。

会見で会田さんは日本のメディアの報道の在り方にも言及。「米の報道に追随するのではなく、自分の頭で考えるべき」と強調した。

会田さんは共同通信社の出身でアメリカウォッチャーとして知られる。今年7月に『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』(東洋経済新報社)を刊行した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信社)

 

 

 


会見リポート

保守思想の地殻変動を見よ

飯山 雅史 (読売新聞出身)

 かつて、トランプ支持者を「嘆かわしい人々」と呼んでしっぺ返しを受けた民主党大統領候補がいたが、我々は未だにトランプ現象の本質を薄っぺらな目でしか見ていなかったと思わせる会見だった。

 グローバリズムの拡大で負け組となった先進国の中間層、貧困層の人々が窮乏化し、特にアメリカではそれが絶望死の増加にまで至った深刻な状況が報告されている。こうした極端な経済格差がトランプ現象の背景とされるが、会見で指摘されたのは、それがレーガン以来の新自由主義もさることながら、クリントン時代からネオリベラル化し、ニューディール以来の所得再分配政策を放棄した民主党の変貌に大きな責任があるという。トップ1%の富裕層と40%の中間層の所得格差は、オバマ政権の時代に急速に拡大していった。

 この流れの中で、民主党は高学歴エリートと富裕層の政党に変身を遂げ、アイデンティティー政治と環境問題に没頭し、窮乏化した労働者から疎遠な存在になっていった。その労働者は次第に共和党に傾き、がっちりと掴みこんだのがトランプだ。

 この変容は長い時間で起きたが、トランプ当選の2016年は大きな画期だ。共和党がほぼトランプ党に変身しただけでない。底流の保守主義思想運動でもネオコン、リバタリアン、伝統主義という三大潮流に再編成の兆しが生まれ、大きな社会改革ビジョンを持った保守主義運動の胎動もある。トランプ政権人事にも実はそうした潮流が流れ込んでいるという。

 そもそも経済格差拡大の根底にあるのは、全世界で進んだサービス産業、IT化への歴史的な産業構造転換であり、アメリカだけの問題ではない。そして戦後世界システムを構築したアメリカの変容は、世界秩序の大変革につながるかもしれない。そうした本質的な問題の報道が見当たらない!と国際報道の大ベテランからの厳しい指摘で会見は締めくくられた。


ゲスト / Guest

  • 会田弘継

    ジャーナリスト・思想史家

研究テーマ:トランプ2.0

研究会回数:1

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