会見リポート
2024年12月09日
14:00 〜 15:30
10階ホール
「中国で何が起きているのか」(23) 許成鋼・スタンフォード大学シニア研究員
会見メモ
スタンフォード大学客員研究員で経済学者の許成鋼さんが来日の機に「Crisis or Decline? Understanding China's Economy from an Institutional Perspective(危機か衰退か?制度という観点から中国経済を理解する)」をテーマに登壇した。
司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)
会見リポート
いまの中国は、崩壊前のソ連に似ているのか
奥寺 淳 (朝日新聞社編集委員)
経済成長が曲がり角を迎えた中国と、崩壊する前のソ連の1980年代はよく似ている――。中国出身の経済学者による会見は、仮に中国共産党の誰かがそう思っていても、決して口にすることが許されない発言から始まった。
中国とソ連、何が似ているのか。まずは、経済成長率の数字に着目する。中国政府が発表する公式データは、エコノミストらが独自に計算した数字よりも「約2%かさ上げされている」という。実体経済は、2018年ごろを境に成長が鈍化・停滞し始め、ゼロコロナ政策を続けていた22年には実質ゼロ成長に近い状態だったという見方だ。
コロナ禍の時期、筆者は中国本土に駐在していた。広東省では注文がなくなった中小工場やレストランは次々とつぶれていた。中国の専門家からも「実質ゼロ成長」という見方も出ていたし、地方政府が経済指標の数字を水増しして処分された例があったことからも、許氏の見方は突拍子のないことではないだろう。
そして、崩壊前のソ連の経済指標水増し率も約2%だったという。
もう一つ興味深いのは、中国のシステムが「地方分権的な全体主義」だと指摘する点だ。地方政府は高いGDP成長を実現して評価を得るため、ほかの省と競い合う。強力な権限で民間企業や海外からの投資を誘致し、政府の信用をもとに借金を重ねる。それにブレーキはかからず、地方債務は危険水域に達した。
さらに、民間部門が力を持ちすぎると、中国共産党は民間の頭を押さえつける。党の支配を維持することが何より重要で、「経済成長よりも優先される」。ソ連とも共通するこうしたシステムを許氏は「遺伝子」と呼び、改革は不能だというのだ。
中国の金融危機や崩壊論には、異論があるだろう。しかし、統治のシステムからくる改革の難しさを説いたものだと受け止めた。
ゲスト / Guest
-
許成鋼 / Chenggang Xu
スタンフォード大学中国経済制度研究センターシニア研究員 / Professor, Senior Research Scholar, Stanford Center on China's Economy and Institutions
研究テーマ:中国で何が起きているのか
研究会回数:23