2024年10月03日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「ハマス・イスラエル衝突」(8) 鈴木啓之・東京大学特任准教授

会見メモ

イスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃し、ガザ地区において両者の軍事衝突へと発展してから10月7日で1年となる。ハマスとの連帯を掲げるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラのナスララ師がイスラエルにより殺害され、ヒズボラの後ろ盾となるイランがイスラエルにミサイル攻撃を行うなど中東情勢が一層緊迫化する中で、イスラエル・パレスチナ情勢が専門の鈴木啓之・東京大学特任准教授が登壇した。ハマスとイスラエルの軍事衝突からの1年を振り返るとともに、国際司法の動き、イスラエルの経済・財政状況など注視すべきポイント、今後の見通しなどについて話した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

中東和平、不可逆的な破綻へ

原田 健男 (元JNNカイロ支局長・山陽放送出身)

 去年10月7日のハマスのイスラエル急襲から1年が過ぎた。この時イスラエル人ら1200人が殺害され、250人が人質として連れ去られた。一方その後のイスラエルのガザ侵攻でパレスチナ人4万1300人以上が死亡し、負傷者は10万人近いと言われている。

 東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は、「中東和平の不可逆的な破綻」と表現し「中東和平は収束を見るどころか、むしろ混乱が広がっている」と述べた。特に人口220万人を抱えるガザ地区の人道危機はすさまじく、WHO(世界保健機関)によると上記の死傷者数に加え、30万人の子供が栄養失調に陥り、97万件を超える呼吸器疾患、根絶したとみられていたポリオがぶり返し、急遽予防ワクチン接種が行われたほどだった。

 停戦交渉は進められているが、ハマスは人質全部の解放に難色を示し、イスラエルは逆にレバノンのシーア派組織ヒズボラの掃討にも乗り出した。並行してハマス最高幹部のハニヤ氏暗殺やヒズボラの指導者ナスララ師も殺害するなど、事態はますますエスカレートしている。さらにイランが報復としてイスラエルへ再びミサイル攻撃を加えた。

 鈴木准教授によるとこの先の停戦や和平の糸口が見えない理由に、イスラエルの国内事情もあるという。ネタニヤフ政権で連立を組んでいる政党のうち2つの極右政党は停戦を受け入れれば連立から離脱する恐れがあり、そうなればネタニヤフ政権は議会の過半数を失って倒れることになる。そのため逆に戦線を拡大している可能性がある。

 またイスラエルを支持する米国の大統領選の行方も不安材料だ。バイデン大統領は停戦を模索しているが、トランプ前大統領は、イランの核施設や石油施設への攻撃を容認する発言をしており、鈴木准教授の指摘する「中東和平の不可逆的破綻」が現実のものにならないか心配する声が高まっている。


ゲスト / Guest

  • 鈴木啓之 / Hiroyuki SUZUKI

    東京大学特任准教授 / Project Associate Professor, The University of Tokyo

研究テーマ:ハマス・イスラエル衝突

研究会回数:8

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