2024年10月23日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「中国で何が起きているのか」(20) 益尾知佐子・九州大学大学院教授

会見メモ

中国の対外政策を研究してきた九州学院大学教授の益雄知佐子さんが、「中国の『平和』、日本の『平和』:転換期の日中関係を考える」をテーマに登壇。初期の統一戦線戦略をはじめ中国の対外政策全般について包括的に解説した。

現時点の情勢については「中国は明らかに対日関係の改善を望んでいる」とした上で、これは自国の経済を立て直し政権への支持を強固なものにするためであり、戦略的ではなく、戦術的な判断に基づくものと解釈できると説明した。

 

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

日中「異なる平和のかたち」

鮎川 佳苗 (共同通信社政治部)

 「とどのつまり、日中関係はなぜうまくいかないのか」。中国の対外政策が専門の益尾知佐子氏はこう切り出した。食事を共に楽しめる。話も合う。個人として分かり合うのは難しくないのに、国家間の話には埋められない見解の齟齬がある―。益尾氏は要因を、日中が希求する「平和のかたち」があまりに異なるためだと読み解く。日本は「アメリカの覇権が打ち立てた自由民主的な秩序が維持され、貿易や経済交流が継続される」のを平和と捉えるのに対し、中国にとっての平和は「台湾が『解放』され、朝鮮半島から、願わくば日本からも米軍がいなくなり、台湾と第1列島線の中に米国の影がない状態」だと分析。こうした主張を日本は受け入れられず、西側と中国が拮抗する国際関係の「綱渡り状態」が相当長い期間続くと見通した。その上で中国の考え方を理解し、互いに妥協案を探る必要があると提起した。

 中国は米中関係を「主要矛盾」と捉えて対外政策として統一戦線工作に取り組んでおり、今後は「国家安全力」の増強を含む「新型の一帯一路」を発展途上国に売り込むと見立てた。また、日本や、民主進歩党が率いる台湾は米国に近すぎて「引っぺがしてくるには難しい存在」に見えていると指摘。ただ最近は経済立て直しのための「休戦」として、対日関係改善を望むメッセージを発しているとみる。

 一方、中ロが連携して、サンフランシスコ平和条約は見直しが必要であり、沖縄の国際的な地位は未定だ―との歴史法律戦を来夏に向けて強化してくると予測。南西諸島の防衛力配備を阻止する狙いから、「琉球独立」論を巡り「トップから指令が出ていると聞いている」とも明かした。こうした状況下で、益尾氏は、政府はあくまで日本産水産物の輸入再開や、在留邦人の安全確保といった具体案を求める対中外交を続けるべきだと提言。日中の研究者交流が減少した現状への懸念も示した。


ゲスト / Guest

  • 益尾知佐子 / Chisako,MASUO

    九州大学大学院教授 / Faculty of Social and Cultural Studies Department of Social Studies Professor, Kyushu University

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:20

ページのTOPへ