2024年04月11日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「中国で何が起きているのか」(12) 松田康博 ・東京大学教授

会見メモ

5月20日に頼清徳氏が台湾総統に就任するのを前に、中台関係や軍事問題を専門とする東京大学の松田康博教授が「中国の対台湾政策―「平和統一」政策の変遷と変質―」をテーマに話した。

 

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

失敗認められぬ「宿痾」

宮内 篤志 (NHK解説委員)

 「中国共産党の発想は我々と違う」。だから、彼らが言っていることをそのまま真に受けると間違える。自分も含めて中国報道に携わる者にとっては耳が痛い指摘だ。

 大学で中国語を専攻して以来、40年にわたり中台関係をウオッチしてきた松田氏。今回、中国の対台湾政策をめぐっても、長年の研究に裏打ちされた分析が冴えた。

 まだ中国に十分な経済力も軍事力も備わっていない時代、鄧小平は「能ある鷹は爪を隠す」という意味の「韜光養晦」を掲げ、台湾を平和的に統一するための穏健策を次々と繰り出したが、目的は果たせなかった。意をくんだ江沢民は台湾側と統一に向けた交渉を進めようとしたが、李登輝に振り回された。

 意外とやり手だったのが胡錦濤だ。アメリカに対し、独立志向を強める陳水扁こそが現状変更をもくろむトラブルメーカーだと印象付けることに成功。中台間の緊張を高めた「反国家分裂法」を制定したが、内実は「非平和的方式」という軍事的手段をとるための条件を厳しくしたもので、むしろ現状維持を可能にした。そのうえで経済成長を続ける中国に台湾を依存させ、逃げられなくするという仕掛けを用いた。一方で国際社会の対中警戒感を喚起しないよう、軍備の増強は目立たない形で続けるという狡猾さも併せ持っていた。

 ところが続いて登場した習近平は、これらの政策をあっさりと「ちゃぶ台返し」してしまう。「江沢民や胡錦濤よりも私の方がうまくできる」と言ったかどうかはわからない。ただ、その後の台湾への威嚇や香港の弾圧、米中対立、戦狼外交が何をもたらしたのかは明白だ。

 中国共産党は絶望的にみずからの失敗を認めることができない組織だという。松田氏はこれを「中国共産党の宿痾」と喝破する。

 その宿痾は、頼清徳政権発足後の中台関係や国際情勢にどのような影響を与えるのだろうか。(一部敬称略)


ゲスト / Guest

  • 松田康博 / Yasuhiro MATSUDA

    東京大学教授 / Professor, Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:12

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