2023年08月21日 16:00 〜 17:15 10階ホール
著者と語る『ウクライナ、地下壕から届いた俳句-The Wings of a Butterfly-』ウラジスラバ・シモノバさん、黛まどかさん

会見メモ

自身初の句集『ウクライナ、地下壕から届いた俳句-The Wings of a Butterfly-』が8月25日に発売されるのを前に、ウクライナ在住の俳人・ウラジスラバ・シモノバさん(24)と監修を務めた俳人の黛まどかさんが登壇。

シモノバさんはリモートで参加し、俳句を詠むようになった経緯や俳句の力、俳句に込めた思いなどについて語った。

句集には、ロシアによる軍事侵攻当日、地下壕での暮らし、ミサイル攻撃が続く中も詠み続けた俳句50句が収められている。

 

司会 早川由紀美 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

 

『ウクライナ、地下壕から届いた俳句-The Wings of a Butterfly-』(集英社インターナショナル)


会見リポート

「ペンで戦争に立ち向かう」

林 啓太 (中日新聞社文化芸能部)

 〈地下壕に紙飛行機や子らの春〉

 〈爆音や春雷の日のよみがへる〉

 ロシアの侵攻にさらされる祖国の日常を詠んだ俳句で、打ち付けに顔を出す悲しみの姿を繊細に捉えた。作者はウクライナ人の俳人ウラジスラバ・シモノバさん。8月に初の句集『ウクライナ、地下壕から届いた俳句』(集英社インターナショナル)を出版。「日本語には言霊、言葉の力がある」と、反響に期待した。

 ウクライナなど各国では、松尾芭蕉や小林一茶らの作品が翻訳で紹介され、外国語の三行詩が「俳句」として詠まれている。ロシア語話者の多い東北部ハルキウ出身のウラジスラバさんは、14歳で俳句を作り始めた。日本の日露俳句コンテストのロシア語部門で入賞の実績もある。

 ロシアが侵攻した直後の昨春、ハルキウの地下壕から私のメール取材に応じ、〈破れ屋の穴より望む星はるか〉など英語で詠んだ作品を、中日新聞と東京新聞で発表した。句集は、私を通じて連絡を寄せた俳人の黛まどかさんが監修。約10年間にロシア語で詠んだ700余りの句から50句を厳選し、和訳を添えた。

 「句集を出すのは夢だった。黛さんが夢を共有してくれた」とウラジスラバさん。今の夢は「家があり、仕事があること」と言い、「平穏な生活が送れるまで(句作の)ペンを握り、戦争に立ち向かいたい」と力を込めた。日本の俳句にロシア語訳で出会わせてくれたロシア人の翻訳家に敬意を表しつつ、「ロシア側がウクライナ人を殺す指示に使う言語での句作に痛みを覚える」とも。過去にロシア語で詠んだ作品の、ウクライナ語への翻訳を進めている。

 黛さんは、収録句を「戦争の日常の中で、少しでも美や光を見いだそうとしている」と批評。「命懸けで俳句の中に切り取った思いが多くの日本人に届いてほしい」と願った。


ゲスト / Guest

  • ウラジスラバ・シモノバ / Vladislava Simonova

    ウクライナ

    俳人

  • 黛まどか / Madoka MAYUZUMI

    俳人

研究テーマ:著者と語る『ウクライナ、地下壕から届いた俳句~The Wings of a Butterfly~』

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