2023年06月12日 11:00 〜 12:30 10階ホール
セルヒー・プロヒ 米ハーバード大学ウクライナ研究所長 会見

会見メモ

ハーバード大学ウクライナ研究所長で、ウクライナ史研究の第一人者であるセルヒー・プロヒ教授が登壇し、「ロシア・ウクライナ戦争の起源と影響」について話した。

プロヒ教授は地域及びグローバルな文脈におけるウクライナに関する著書を多数持つが、今年新たに『The Russo-Ukrainian War(ロシア・ウクライナ戦争)』を刊行した。

今回の来日は、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの招きによるもので、数カ月同大学で研究をする予定。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

通訳 大野理恵 サイマル・インターナショナル

 

 


会見リポート

恒久的平和はロシアの大敗北が前提

常盤 伸 (東京新聞編集委員)

 ロシアによるウクライナ侵略戦争は約1年4カ月が経過した。多大な犠牲を払いながらウクライナは占領されている東部や南部計4州の奪還を目指し粘り強く反転攻勢を続ける。

 ウクライナ研究の第一人者で自身もウクライナ人であるプロヒー氏の発言には大きな注目が集まり会場はほぼ満席に。

 プーチン氏の狙いについて、「19世紀のロシアの帝国モデルを復活させるだけでなく、1991年に起きたソ連解体を逆行させ、なかったことにすることだった」と指摘。権威主義体制を構築したプーチン氏にとり、民主主義が成功する可能性があり、ロシアが支配する空間から離脱を目指すウクライナは「ロシアにとって二重の脅威だった」と述べた。現在の戦争の本質を見事に言い当てたといえよう。

 筆者は、何らかの理由でプーチン氏が退陣しても権威主義は長期間続くとみている。この観点から「地理的空間や歴史的背景、国民意識の面で帝国的な性格に強固な基盤がある限り、将来もしロシアで改革が起きても、いずれは帝国主義が復活するのではないか」と質問した。プロヒー氏は「短期的には悲観的だが、長期的には帝国主義から離脱し、両国関係は改善するだろう。ただし、相当時間がかかる」と述べた。どの程度の期間なのか知りたいところだ。

 戦争終結の見通しについて「一時的停戦では恒久的な平和はありえない。将来再び侵略戦争を起こす能力がない状態にまでロシアが大きな敗北を喫することだ」と強調した。

 プロヒー氏は、多くの国が「帝国」から独立を勝ち取った戦後の世界の歩みと同様、「この戦争もウクライナの勝利で終わることは明らかだ。ただ、いつそうなるのか、その代償は何なのか、答えようがない」と述べた。ウクライナ人の揺るぎない勝利への信念と、言いようのないもどかしさがこの言葉に凝縮されているのではないだろうか。


ゲスト / Guest

  • セルヒー・プロヒ / Serhii Plokhy

    ハーバード大学ウクライナ研究所所長 / director of the Ukrainian Research Institute at Harvard University

ページのTOPへ