2023年07月12日 15:30 〜 17:00 10階ホール
「関東大震災100年」(5) 首都防災 廣井悠・東京大学先端科学技術研究センター 教授

会見メモ

都市防災、都市計画を専門とする東京大学先端科学技術研究センター教授の廣井悠さんが登壇。関東大震災当時と現在の地震火災リスクを、出火、延焼、消火、避難の4つの観点から比較し、都市の地震火災安全性能について検証した。廣井さんは、特に大都市においてはいまなお地震火災リスクは大きな課題であると強調。「知らせる、消す助ける、逃げるのあるべき役割分担とタイミングを地域内で考えておくことが重要」とした。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

都市は安全になっているのか/「避難力」の向上も課題

久慈 省平 (テレビ朝日広報局・元災害報道担当部長)

 100年前の関東大震災が、もしもいま起きたらどうなるのか。過去の教訓を生かし、さまざまな対策が進む現代ニッポン。あのような甚大な被害にはならないだろう。そんな私の浅い考えを、データをもとに否定したのが都市防災の第一人者である廣井教授だ。

 「都市は安全になっているのか」。廣井教授は関東大震災で被害が大きかった火災に焦点を当て、出火、延焼、消防、避難の4つの論点から当時と現在のリスクを比較、検証した。風の強い昼どきに竈(かまど)を使っていた当時とは違い、出火率は低下しているが、出火件数自体は増えていると分析。延焼速度は遅くなっているが、飛び火は依然としてあり、「まだまだ日本の市街地は燃える」と警鐘を鳴らした。さらに、上層階でスプリンクラーが使えなかった事例を挙げて、震災時ビル火災という新しいリスクの存在も明らかにした。消防力は戦後、劇的に充実したものの、地域の消防団員は減少傾向にあり、初期消火が及ばない可能性を指摘。避難経路、避難場所などインフラ整備が進む一方で、「逃げ方は下手になっているのではないか」と危ぶんだ。

 津波や風水害は自治体の避難指示で「直ちに逃げる」ことが原則だが、火災向けの避難情報はない。火災発生を周囲に知らせた上で、すぐに逃げるのか、初期消火をするのか、人を救助するのか。この選択は「津波より、ある意味難しい」とした。実際、2016年に起きた新潟県糸魚川市の大規模火災では、避難も消火もしないで「火の様子を見ていた」住民が約4割もいたという。

 自治体ごとに避難方法や表現の違いがあることにも苦言を呈した。「避難力」の向上には、住民の役割分担と、個人の判断、専門性と社会性のバランスが必要と訴える。「防災だけでは社会は成り立たない」と話す廣井教授。ゲストブックには「全体最適」と揮ごうし、その思いを表した。


ゲスト / Guest

  • 廣井悠 / Yu HIROI

    東京大学先端科学技術研究センター 教授 / Professor, Dept. of Urban Engineering, University of Tokyo

研究テーマ:関東大震災100年

研究会回数:5

ページのTOPへ