2022年12月09日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「日本の安全保障を問う」(6) 奥島高弘・前海上保安庁長官

会見メモ

現場生え抜きで、2020年1月から今年6月までの約2年半、海上保安庁長官を務めた奥島高弘さんが登壇。

尖閣諸島海域などの状況を踏まえ、非軍事の法執行機関である海上保安庁が日本の安全保障に果たす役割、自衛隊との連携のあり方などについて話した。

 

司会 川上高志 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

非軍事ならでは 海保の役割

倉重 篤郎 (毎日新聞社客員編集委員)

 尖閣を巡る中国との攻防をどう戦闘行為に発展させずに収めるか。親子二代の「海猿」で、今年6月まで海保長官を2年半務めた奥島氏はまさにうってつけの論じ役であった。

 領海警備は、海保やコーストガードという警察的法執行機関が担当する国と、軍管轄の国と分かれるが、世界の大勢は前者にある、という。

 そのメリットは以下である。第一に前者は国際法に基づく共通ルールがあるから紛争にはなりにくいが、後者は実力主義であり、力のある者が正義になりかねない。第二に、前者には「警察比例(事件の態様に沿った処理)の原則」があり、過大な力の行使には抑制的だ。第三に、前者の所持火力は逮捕の手段として軽微なものであり、後者のように相手の殲滅を目的にしたものではない。

 要は、事態をエスカレートさせずに対処できる。その証左として、奥島氏は中越の南シナ海での過去の紛争を3つ挙げ、軍同士による2回は死者発生の大ごとになったのに対し、海保同士は死者もなく穏便に収まったとした。日本の事例としては2001年の北朝鮮工作船の追尾、沈没事件を挙げ、海自でなかったことが北の反発を弱めた節があるとした。

 これらのことから奥島氏は海保法25条の「非軍事組織の法執行機関」として海保を軍隊と差別化した条項について、「国家間の紛争解決の手段として戦争を放棄した日本に最も適した対応だと考える」と述べた。

 もちろん尖閣にも言及、2012年9月の国有化以降中国側が組織改編、法整備、隻数増加に踏み切り、ここ数年は中国海警船の接続海域入り、領海侵入が飛躍的に増えていると指摘。警備のコツとして「数が勝負。常に相手を上回り、手ごわいぞという状況を作ることだ」とし、海保予算の増枠に理解を求めた。使命感あり、理屈立ち、ユーモアあり。こんな男が日本の国境線の守り手なんだとほっとした人も多かったのでは。


ゲスト / Guest

  • 奥島高弘 / Takahiro OKUSHIMA

    前海上保安庁長官

研究テーマ:日本の安全保障を問う

研究会回数:6

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