2022年12月02日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「中間選挙後の米国と世界」(3) 前嶋和弘・上智大学教授

会見メモ

アメリカ現代政治外交が専門で、今年10月に『キャンセルカルチャー アメリカ、貶めあう社会』(小学館)を刊行した、前嶋和弘・上智大学教授が登壇。米中間選挙の結果が内政、外政に与える影響、2024年の大統領選挙をどのように見ているのか、米政治の底流にある「キャンセルカルチャー」について話した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

分断は続く、それでも復元

沢村 亙 (朝日新聞社論説主幹代理)

 民主党の善戦なのか。トランプ氏が共和党の足を引っ張ったのか。ここまで予測も結果分析も難しい、ジャーナリスト泣かせの米中間選挙だったのは珍しいかもしれない。

 それでもはっきりしているのは、「業績評価投票の終焉です」と、前嶋さんは説く。暮らしが良くなれば政権党に票を投じ、逆ならばおきゅうをすえる。その方程式が成り立たなくなった背景には、米国政治をむしばむ根深い分断がある。

 妊娠中絶の権利が狭まる危機感が民主党への追い風になったのは間違いない。かたや共和党が攻撃材料にしたのは、記録的なインフレだ。だが、これとても、民主党支持層が多い大都市圏への「ばらまき」に対する保守層の不満を喚起する狙いがあった。さらに移民や人種問題と、米国人の「心の琴線」に触れる価値観をめぐる分断が、中間選挙の主要争点になったとの見立てである。

 上院の主導権を確保し、バイデン政権は〝勝利ムード〟を演出する。だが前嶋さんは、下院で勝利した共和党が今後さらに対決姿勢を強めていくとして、特に内政で多難な政権の前途を予測する。バイデン氏が力を入れてきた温暖化対策などは停滞し、自身が失政やスキャンダルの追及砲火を浴びる事態にもなりかねない。

 がぜん注目の的の2024年の大統領選挙。「影響力は陰った」といわれるトランプ氏だが、前嶋さんは「まだまだ(支持層を)まとめる力があります」。往々にして党の主流や保守系メディアとは逆に勢いが振れるのが、昨今の米国政治だからだ。

 かくして、米国の分断はしばらく続く。それでも、長期的には米国は復元する、と前嶋さんは、さらに「その先」を読む。カギは人口動態だ。「(2大政党が)移民層の支持を取り合えば、政策はおのずと真ん中に寄ってくるでしょう」。優れた政策を立案する人材もまだまだ豊富だ。米国研究者の冷徹な「楽観論」に少し救われる思いがした。 


ゲスト / Guest

  • 前嶋和弘 / Kazuhiro MAESHIMA

    上智大学教授 / professor, Sophia University

研究テーマ:中間選挙後の米国と世界

研究会回数:3

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