会見リポート
2022年09月12日
13:30 〜 15:00
10階ホール
「全世代型社会保障」(2) 子を持つことはリスクか 永瀬伸子・お茶の水女子大学教授
会見メモ
労働経済学と社会保障論を専門とするお茶の水女子大学の永瀬伸子教授が登壇。
男女ともに仕事を持ち続けることを前提とした教育・雇用・児童政策への見直しや、非正規雇用を含めた出産後の社会手当を拡充することの必要性などを訴えた。
司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)
会見リポート
共働き前提に働き方と社会保障の見直しを
奥山 はるな (毎日新聞社くらし医療部)
「子を持つことはリスクか」。この問いは昨年、お茶の水女子大の学生とのやりとりから生まれた。ゼミで独身の男女3200人を調査すると「子を持つつもり」の20代女性は6割に過ぎず、驚いた。ところが、学生の反応は違った。「こんなものです」「子どもを持つのはリスクが高い」「簡単に持とうとは思えない」
若い世代は何をリスクととらえているのか。一つに、非正規雇用の拡大による経済不安があると分析する。上記の調査で「子を持つつもり」の割合は、同じ女性でも正社員より非正規社員の方が低く、男性の非正規社員はより一層低かった。聞き取りでは「お金がないなら子を持たない方が良い」との声があった。
もう一つは、仕事と子育ての両立が、依然として困難な課題であることと指摘する。振り返ると、30年前の1992年に育児休業制度が施行されても、第一子の出産後に女性の7割が無職になる状況は2008年ごろまで変わらず、結婚と出産は減少した。2010年以降、出産後も正社員を続ける女性が増えたが、保育所の整備は後手に回り、大都市で枠が拡大したのは2013年以降だった。
共働き志向が高まっても、雇用慣行や社会保障の整備が追いつかない。家事に時間を割くのは女性に偏り、男女間の賃金格差は開いたままだ。主婦層の無職は減ったが、配偶者のいる女性の7割は年収130万円未満で働き、専業主婦を想定した第3号被保険者制度の枠内にいる。離婚から貧困に陥る可能性もある。
これらの現状を踏まえると、子を持つことはリスクとなり得る。必要なのは「働き方と社会保障の見直し」であり、共働きを前提とした子育て施策や、非正規雇用を含めた出産・育児の収入保障、男女とも育児とキャリア形成を両立できる雇用慣行の変化が求められると締めくくった。
ゲスト / Guest
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永瀬伸子 / Nobuko NAGASE
お茶の水女子大学教授 / professor, Ochanomizu University
研究テーマ:全世代型社会保障
研究会回数:2