2022年08月26日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「全世代型社会保障」(1) 昭和の家族モデル脱却を  山田昌弘・中央大学教授

会見メモ

「全世代型社会保障」のあるべき姿を考える研究会の第1回に家族社会学が専門の山田昌弘・中央大学文学部教授が登壇。現行の社会保障制度の問題点について話した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

昭和の社会保障 機能せず

山口 聡 (日本経済新聞社編集委員)

 山田昌弘教授は国内外で講演する際、「私の話は明るくありませんよ」とあらかじめ断るそうだ。今回の会見もその言葉通り。安易に希望を持たせるような記事を書いてはいけない、と戒められているような気分になった。

 端的に言えば、昭和の家族モデルを前提につくられた社会保障制度はもう機能しないという内容だ。夫は正社員で妻は専業主婦、子どもは2人。生活保護などの一部制度を除けば、そんな経済的にある程度安定した家族が万が一の事態や老後のために標準コースから少し外れてしまったときに元のコースに戻してあげるのが社会保障だった。

 ところが今や結婚しない人や結婚しても離婚する人が珍しくない。夫婦共に非正規労働者という場合もある。子どももかつてのようにはつくらない。そもそも標準コースから大きく外れていたりする。それを元に戻すような力は社会保障にはない。経済が成長せず、賃金も増えない中、社会保障のための負担を多くの人が嫌がるようにもなった。ボランティアも寄付も、その気持ちはあっても、実際に実行に移す人は少ない。

 書いていても暗くなってくるが、現実に起こっていることから目をそらすわけにはいかない。日本が置かれた状況を改めて確認するにはふさわしい内容だったともいえる。

 とはいえ、希望もほしいところ。「ディストピアを脱するためには?」との質問も出た。教授の答えは「今の若者はバーチャルで満足ならば現実世界が貧乏でも耐えられる。そんな人同士で結婚すればより楽しめる」。「若者たちは不幸ではない。みんな一緒に少しずつ貧乏になるなら耐えられる」との発言もあった。

 「それが答え?!」と思わずうなってしまうところだが、わたしたちはこれまでの時代で形づくられた「幸せ」や「豊かな社会」のイメージこそをつくりなおす必要があるのかもしれない。


ゲスト / Guest

  • 山田昌弘 / Masahiro YAMADA

    中央大学文学部教授 / Professor, Faculty of Letters, Chuo University

研究テーマ:全世代型社会保障

研究会回数:1

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