2021年12月17日 14:00 〜 15:00 10階ホール
ピオレドール生涯功労賞受賞 山野井泰史さん

会見メモ

「歴代の受賞者は僕にとってのヒーロー。そのような賞を僕が…と驚いた」。

登山界で最高の栄誉といわれる「ピオレドール生涯功労賞」の13人目の受賞者となった山野井泰史さんは、受賞の一報を受けた際の心境をこう語った。

山野井さんは「アルパインスタイル」の登山家。単独、無酸素で数々の最高峰の登攀を成し遂げてきた。

会見では登山をはじめたきっかけ、自身の登山スタイル、他の登山家と自身の違いなど、多岐にわたる質問に言葉を選びながら、一つ一つ丁寧に答えた。

「昔は明確な目標がないと落ち着いて生活できなかった。いまは明確な大きな目標がないのにまあまあ落ち着いて生活している。自分の中で何かが落ちている可能性がある」。56歳を迎えたいまの心身の変化にも言及した。

垂直(上を目指す登山)から水平(横に進む冒険)に変わる可能性はあるのかとの質問には、「下を見て、うわーっ。すごい高いところまで来たという感じが好き。僕はこときれるまで垂直だと思う」。

会見ではピオレドール賞の選考委員を務めた経験をもつ山と渓谷社取締役(山岳出版本部本部長)の萩原浩司さんが賞の概要や山野井さんのこれまでの登攀歴について説明した。

 

司会 元村有希子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)

代表質問 近藤幸夫 朝日新聞長野総局山岳専門記者

 


会見リポート

しなやかで強靭な知性

倉重 篤郎 (毎日新聞社客員編集委員)

 「ピオレドール生涯功労賞」は、並外れた登攀歴を有し後世代への模範になるようなクライマーだけに授与される。山野井さんの受賞も世界で13番目、アジアでは初めてだ。

 山野井さんは「驚いたし名誉とも思った」と言いながら「喜んだかな?」と自問、むしろいつもの生活パターンが崩れることを心配した。ただ、自分に登山を教えてくれたオジが病床からラジオで聞いた、と電話をくれるなど周囲が喜んでくれたことで幸せな気分になった、という。

 ことほどさよう、実に正直で飾らない人である。言葉数は多くないが、問いには実に的確に、かつ丁寧に答えてくれる。

 なぜ単独行なのか、に対しては「山がより身近に感じられ、自然とダイレクトに触れ合える。大きな達成感を独り占めできる」。地球温暖化の影響については「頂上や稜線が鋭くなり歩きづらい。南米の氷河の後退が特に激しい」。日本の山の魅力については「谷は深いし山の天候はかなり厳しい。登攀能力を向上させる訓練の場となる」等々。

 当方も2問聞かせていただいた。自分のどこが登攀の天才だと思うか。そして、死屍累々の世界でなぜ毎回生還できたのか。

 「運動能力で言えばトップクラスに比べて心肺機能は7割、登攀技術は8割、精神的部分は9割しかない。だが、僕は計画を立てるのが上手だ。どう訓練し、どう登ったら死なずに帰ってこられるか、素早く計算できる。家での準備段階でイメージできるのが僕の強みだと思う」

 「山に入った瞬間の集中力が高い。落石がどうか、天候はどうか、センサーを強力に働かせる。常に視線を広くし山のことしか頭に入れない。その差が生き残るのに重要だ」

 身体だけではなく、実にしなやかで強靭な知性が感じられた。「天国に一番近い男」と言われながら、56歳の今まで数々の難所をくぐり抜けたクライマーの強みがそこにあった。


ゲスト / Guest

  • 山野井泰史 / Yasushi Yamanoi

    ピオレドール生涯功労賞受賞登山家

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