会見リポート
2019年10月24日
15:30 〜 16:30
10階ホール
「<表現の不自由展・その後>のその後」(2) 野田邦弘・鳥取大学教授
会見メモ
野田邦弘教授は文化庁の補助金採択についての審査委員会の委員を務めていたが、「あいちトリエンナーレ」に対して同庁が全額不交付を決めたことを受けて辞任した。文化行政に携わった経験を踏まえ、文化政策のあり方や今回の経緯、一連の事態についての見方を話した。
野田教授は横浜市職員として文化事業の企画・運営や文化施設の整備などに携わった文化行政の専門家で、2004年から現職。『文化政策の展開: アーツ・マネジメントと創造都市』(2014年 学芸出版社)などの著書がある。
司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)
会見リポート
審査委員を抗議辞任/「今は政治と芸術は不可分」
坪井 ゆづる (企画委員 朝日新聞社論説委員)
文化庁の補助金不交付の決定に異を唱え、補助金審査委員を辞めた人だけに、現状を厳しく批判した。
まずは元横浜市職員らしく、「地方自治の観点」から。不交付の理由に「運営を脅かすような重大な事実を申告しなかった」とあることについて、「主催する愛知県が責任を持って対処すべき問題だ。国に相談がなかったので補助金を出さないのは地方自治への侵害だ」と指摘した。
次に挙げたのは「審査委員会の軽視」。採択案件の撤回は前例がないことや、委員会に諮ることなく官僚が決めたことを問題だとした。
また、文化庁長官が決裁していない、不交付決定の議事録がない、文化庁は現場視察も行っていない点などにも疑問を呈した。
さらに「不自由展」が再開されたのを踏まえて、不交付の理由だった「実現可能性」「事業の継続性」は解消されたとの認識を示した。
その上で、現状は電話攻撃やテロ予告で事業を中止にさせるだけでなく、国の補助金を引きはがせる前例になりかねないとの危機感を表明。
「このような事態が常態化すれば芸術活動に限らず、学術研究、思想表現、宗教活動など人間の知的活動全般への影響が懸念される。その結果、知的活動の低下を招き、日本の国力低下につながる」と述べた。
会場からは「平和の少女像」について、「政治的運動の道具として利用されたものを、どうして芸術だと認めたのか」との質問があった。
これに対する回答が秀逸だった。
「政治と芸術が一線を画す時代ではない。政治的な争いそのものが作品になる時代」だとして、移民、LGBTなどをあえて挑発的に取り上げ、論争を起こすためにやっているという現代アートの状況を説明。
「それに公金を出すのを認めないという議論はあるが、国家や地域、都市の文化は多数派の意見だけでいいのか」と問いかけた。
ゲスト / Guest
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野田邦弘 / Kunihiro Noda
鳥取大学地域学部地域文化学科教授 / professor, Tottori University
研究テーマ:「<表現の不自由展・その後>のその後」
研究会回数:2