2019年10月21日 14:00 〜 15:00 10階ホール
「オリンピック・パラリンピックと社会」(1) 浅川伸・日本アンチ・ドーピング機構専務理事

会見メモ

シリーズ企画「オリンピック・パラリンピックと社会」の初回ゲストとして、日本アンチ・ドーピング機構の浅川伸専務理事が登壇し、ドーピング対策の現状と課題、アンチ・ドーピングの立場からみた強化策のあり方などについて語った。 

「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」を掲げた2020年のオリンピック、パラリンピックは社会になにをもたらすのか――。同シリーズでは、大会に関わる様々な立場の人を招き、大会が目指すものなどについて聞く。

 

司会 森田景史 日本記者クラブ企画委員(産経新聞) 

日本アンチ・ドーピング機構


会見リポート

巧妙さ増すドーピング/根絶に向け戦いは続く

森田 景史 (同シリーズ担当企画委員 産経新聞社論説委員)

 「9秒79」という数列は忘れ難い。スポーツに関わる人にとって悪夢の数字だろう。陸上男子100㍍。世界新。ソウル五輪(1988年)。そして、ベン・ジョンソン。関連ワードどころか光景まで鮮明に思い出せる。31年も前の出来事を。

 同じ大会で、日本の金メダリストをすぐ思い出せるか。問いを重ねることで、罪の深さがより明確になる。「素晴らしいパフォーマンスを上書きして、人の記憶にこびりつく。それがドーピングです」。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の浅川伸専務理事はそう語った。

 ドーピングの手口は年々、巧妙の度を加え、分析技術の進歩が後追いで追及の手を伸ばしている。大会中の摘発はレアケースで、10年間保存される検体の再検査により、不正が暴かれるのが大半という。2020年東京五輪・パラリンピックも、その例外ではあり得ない。

 選手単独ではなく、指導者を含むチーム、薬物の流通経路を束ねるシンジケートの介在が、根絶をより難しくしている現実も語られた。詳細は会見動画を見てもらうとして、浅川氏が揮毫した「勝利を超える価値がある」は、胸に刻みたい言葉である。

 来夏のオリパラは、日本に何をもたらすのか。モノを足していく1964年大会をなぞるだけでは東京が持たない。五輪後の日本を待つのは、「心のバリアフリー」という言葉で解決するほど薄っぺらな変化でもない。老いという巨大な磁石で、誰もが「弱者」と呼ばれる立場へ日一日と吸い寄せられる。バリアフリーは障害を持たぬ人が持つ人にもたらす社会的変化ではなく、わが身に迫る課題として捉える。そんな思考の切り替えも、シリーズ『オリパラと社会』を通して一人一人に試みてほしい。「2020」をまぶしい記憶を宿した数列に磨き上げるためにも。


ゲスト / Guest

  • 浅川伸 / Shin Asakawa

    日本 / Japan

    日本アンチ・ドーピング機構専務理事 / managing director, Japan Anti-Doping Agency

研究テーマ:オリンピック・パラリンピックと社会

研究会回数:1

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