2019年09月20日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「朝鮮半島の今を知る」(33)北朝鮮帰国事業から60年 国際政治と人権を考える 朴正鎮・津田塾大学教授

会見メモ

今年は北朝鮮帰国事業開始から60年にあたる。朴正鎮教授が最新の研究をもとに、在日朝鮮人が北朝鮮に渡った背景、彼らの人権が国際政治の変化の中でどう扱われてきたのかなどについて解説した。

朴教授は『帰国運動とは何だったのか 封印された日朝関係史』(2005)、『日朝冷戦構造の誕生―1945-1965 封印された外交史』(2012 いずれも平凡社)などの著書で知られる。

 

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

「北朝鮮帰国事情に新たな視点必要」

五味 洋治 (東京新聞論説委員)

 資本主義の国の日本から、社会主義国家の北朝鮮に、日本人妻約1800人を含む9万人超の人たちが船に乗って移住した「北朝鮮帰国事業」。今では信じられないこの事業が始まってから、今年で60年となる。

 これまでは、生活苦にあえいだ在日朝鮮人が、日本での生活に希望を失っていた。労働力を必要とした北朝鮮が、彼らの受け入れに応じた―との見方が一般的だった。

 「これでは十分説明できない。新しい論点が必要だ」と、この問題を長く研究してきた朴正鎮・津田塾大教授は強調した。

 日本や韓国、ロシアなどで外交文書が公開され、帰国事業の背景が徐々に明らかになったためだ。

 まずは、日本政府は、長い時間をかけて、周到に在日朝鮮人の帰国を計画していたという。

 生活保護を受けている人が多い在日朝鮮人の存在は、日本にとって重荷だった。さらに当時進められていた日韓国交正常化交渉は、在日朝鮮人の法的地位問題で暗礁に乗り上げていた。大規模な帰国を実現することで日本側は、正常化交渉を有利に進める狙いがあった。簡単に言うと「厄介払い」(朴教授)だ。

 一方、北朝鮮側は、実は労働力をとくに必要としていなかったという。むしろ朴教授は「朝鮮総聯(在日本朝鮮人総聯合会)は、日本にとどまるよう内部に指示を出していた」と指摘した。これには驚いた。

 しかし本国の決定を受けて総聯は大きく方針転換し、帰国に向けた運動を展開。短期間で10万人が帰国を望むという盛り上がりをみせた。

 韓国は極端な反共産主義から帰国事業に反対したが、孤立を深め、有効な対応策を取れなかった。

 高齢となった日本人妻の帰国は、今も実現していない。日本政府は無条件の対話を北朝鮮側に呼びかけているが、この忘れられた人道問題にも、光が当たることを願いたい。


ゲスト / Guest

  • 朴正鎮 / PARK Jung Jin

    津田塾大学教授 / professor, Tsuda University

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:33

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