会見リポート
2019年03月01日
14:30 〜 16:00
10階ホール
「統計不正問題の深層」(3) 神林龍・一橋大学教授
会見メモ
毎月勤労統計の不正調査を巡って厚労省が今月新たに設けた「実質賃金の公表に関する有識者検討会」の委員を務める神林氏が、毎月勤労統計の作られ方や、統計データの構造、統計制度のあり方などについて話した。
司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)
会見リポート
政策立案と遂行の未分化が問題の背景に
小玉 祥司 (日本経済新聞社編集委員)
「統計不正問題の深層」会見シリーズ第3回目は、厚労省が設けた「実質賃金の公表に関する有識者検討会」の委員を務める神林龍・一橋大学教授を迎えた。神林氏は統計には政策の立案と遂行にかかわる2種類があるが、日本では二つが未分化だったことが問題の背景にあると指摘。中立性と信頼性の高い基幹統計を整備することの重要性を訴えた。
会見では、まず毎月勤労統計が速報性を重視して変則的な調査方法をとっていたことを解説。調査企業を入れ替える時にデータに断層ができることから、短期的な景気動向の判断材料として注目される一方で「みんながあやしいと思っていたグレーな統計」と語った。
そのうえで、統計は政策立案のために何が知りたいか目的を決めてデータを集める統計調査と、行政が政策を遂行する中で自動的に収集される行政データに分かれる、と説明。日本では官庁が政策立案と遂行の両方を手がけてきたため2種類が未分化だった、とした。しかし政策立案機能が官邸に移り、遂行にシフトした官庁では「基幹統計がういてしまい、誰も重要と思わなくなったのではないか」と不正の背景を推測した。
また「労使の慣行からデータを重要視してこなかった労働政策立案のプロセスで問題が起こったのは示唆的」とも指摘。データや事実を直視する大切さをあらためて考えさせられた。
統計制度を再考するうえで、政策の立案と遂行に加えて評価の重要性を強調。三つの統計を担う主体を別々に作るべきで「評価と立案に関する統計を官庁が持つのは危険。統計が一番力を発揮するのは評価の部分で、ここの中立性をできるだけ高めるべきだ」とした。中立性を保つために制度的な保障や専門家の登用、相互監視が必要とし、専門的な統計のキャリアを作るのよりも「民間や研究者などとの横の人事交流をするのがいいのではないか」と提言した。
ゲスト / Guest
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神林龍 / Ryo Kambayashi
日本 / Japan
一橋大学経済研究所教授 / Professor, Institute of Economic Research, Hitotsubashi University
研究テーマ:統計不正問題の深層
研究会回数:3