2019年01月24日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「日本の労働を誰が支えるのか」(5)フランスの移民社会 宮島喬・お茶の水女子大学名誉教授

会見メモ

『フランスを問う 国民、市民、移民』(人文書院2017年)などの著書がある宮島喬氏がフランスの移民制度や社会について解説した。2018年秋、自動車燃料税引き上げ反対デモから広がった「黄色いベスト」運動については「移民の問題とつながるとことは考えにくい」と指摘した。

司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

 

『フランスを問う 国民、市民、移民』(人文書院2017年)


会見リポート

仏移民政策、紆余曲折の歩み

三好 範英 (読売新聞社編集委員)

 歴史的な経緯が会見の大半を占めたが、現在、フランス、欧州で起きていることを理解する多くの手がかりが得られた。やはり、歴史を知ることなしに現在も理解できない。

 仏は第2次世界大戦前から、西欧で最も古い移民受け入れ国だった、という。戦後は国策として外国人労働者受け入れを広く宣言し、国籍、民族、職種による選別なく「潔く、おおらかに」受け入れた。滞在許可は自動更新された。

 しかし、戦後の高度成長時代が過ぎ、オイルショック(1973年)が起きると、ドイツなどと同様、受け入れを停止。他方、滞仏中の労働者の多くは定住移民の道をたどった。

 移民第2世代は高失業に苦しむと同時に、肉体労働を嫌いサービス業に流れている。さらに家族の呼び寄せによってイスラムの家庭は、子どもに模範であることを示す意識が生まれた父親がラマダンを行うなど、むしろ宗教化したという。

 サルコジ政権で新移民法を施行し、移民の選別を打ち出し、高技能移民の導入を図ったがあまり効果はなかった。また、「受け入れ・統合契約法」により、仏語教育や共和国原理を教え、国民アイデンティティー強化も図ったが、「行き過ぎの同化政策」などの批判もあった。

 こうした前史の上に、右翼政党「国民連合(旧国民戦線)」の勢力拡大や、2015年からのテロ続発等の危機が生じた。国民連合は「イスラム移民は仏に同化不可能」と攻勢を強め、欧州連合(EU)からの離脱問題が移民受け入れか否か、という問題と同一視された。一連の現象の底にある移民問題の根深さを感じずにはいられない。

 国民連合は、高齢者、中上層階級、女性、カトリック教徒にとって今も拒否の対象であり、EU離脱は都市民にとって非現実的。従って伸長には限界があるとの分析だが、仏社会の変化からは目が離せない。

 


ゲスト / Guest

  • 宮島喬 / Takashi Miyajima

    日本 / Japan

    お茶の水女子大学名誉教授 / professor emeritus, OCHANOMIZU UNIVERSITY

研究テーマ:日本の労働を誰が支えるのか

研究会回数:5

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