会見リポート
2018年08月21日
13:00 〜 14:30
9階会見場
著者と語る『【中東大混迷を解く】シーア派とスンニ派』池内恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授
会見メモ
司会 脇祐三 日本記者クラブ元企画委員(日本経済新聞)
会見リポート
中東混乱の現状は「まだら状」の秩序
高橋 友佳理 (朝日新聞GLOBE)
「まだら状」の秩序――。【中東大混迷を解く】シリーズ第2弾として出版された『シーア派とスンニ派』で、池内恵氏は今の中東の現実をそう表現した。中東を見つめてきた池内氏には常に意識してきた問いがあった。フランシス・フクヤマが提示したように中東・イスラム世界も「リベラル・デモクラシー」という普遍的な規範で塗り込められていくのか、それともサミュエル・ハンチントンが予言したように反西欧文明の雄として台頭してくるのか? いま出した答えは、そのどちらでもなかった。
欧州が右傾化し、米国でもトランプ大統領が登場。いまや普遍的な統治、国際システムを中東にも普及させようとする勢力はいない。その中でも、リベラル・デモクラシーを追求する主体もある。だがいま中東の地図を見渡して目につくのは、国家の代わりに宗派、部族などのアイデンティティーでつながった主体による領域の存在だ。本書のタイトルである「シーア派」と「スンニ派」もしかり、過激派組織「イスラム国(IS)」もしかり。そして理解するために、さかのぼるべきは40年前の「イラン革命」だとした。
ただ、宗派主義に関して、その台頭は結果であって原因ではないという。教義が違うから対立するのではなく、宗派主義が効果的な政治的ツールとして利用された結果、今の秩序が生まれていると。
この本、発売後まもなく増版が決まったというから世間の疑問に答えるものだったのだろう。池内氏の記者クラブでの会見は2014年以来4年ぶり。前回は「アラブの春」後の混乱ぶりを受けて、記念の揮毫に「転」と書いた。今回選んだ言葉は「一新」。さて、明るい未来に向かう新たな歴史の1ページを刻むのか、それともさらなる混乱か。いずれにせよ、今後も中東から目を離すことができないのは確かである。
ゲスト / Guest
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池内恵 / Satoshi Ikeuchi
東京大学先端科学技術研究センター准教授 / Associate prof., Research Center for Advanced Science and Technology, Univ. of Tokyo