2018年06月28日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「朝鮮半島の今を知る」(10) 北朝鮮核問題に見る戦略理論の混迷  柳澤協二・元内閣官房副長官補(安全保障)

会見メモ

 米朝合意は「トランプが譲歩したように見えるが、譲歩された金正恩はこの合意を維持せざるを得なくなる。これを壊して米国と戦争すれすれまで行けるわけがない。その意味では金正恩が追い込まれている」と分析した。

 

 

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

 


会見リポート

戦略思想見直す好機

倉重 篤郎 (企画委員 毎日新聞社専門編集委員)

 5年間官房副長官補として安全保障を担当したが、イラク戦争を機に抑止力強化万能主義に疑問を投げてきた人である。今回の半島和平の動きをどう見たか?

 第一に、米朝首脳会談については、体制保証と非核化をディールしたもので、北朝鮮にとってこの路線以外の選択肢を取れなくした、という意味で、この不可逆性の実現は大きな第一歩として評価できる、という。

 第二に、今回の交渉は、核を実戦配備していた国を非核化するという従来の教科書になかったもので、戦争によらず話し合いによって国家意思を変更させることができれば、近代戦争史上特筆されるケースとなる。軍事抑止力強化が主流だった現代の戦略思想にも影響を与える可能性がある。この際、国家意志を変える手段として強制と報償のどちらが有効か、報復戦争を前提にした米国による抑止力は本当にあてにできるのか、などについて戦略的検証をすべき時ではないのか。

 第三に、日本の取るべき道である。当面は米朝の敵対関係と朝鮮戦争を終結させるプロセスが重要で、日本はその邪魔をしないことだ。ただ、拉致、核、ミサイルの同時解決を求め遅々として進まなかった交渉は、急きょ前進する展望が出てきた、ともいえる。

 第四に、東アジアの安保環境がどう変わるか。論理的には国連軍が解体され、対北シフトの在日米軍の配備見直しもあるかもしれないが、要は、西太平洋をめぐる米中両大国の覇権争いの行方がどうなるか。軍事力で対抗するのは不可能で、外交力でどう手を握るのか、を考えるべきだ。日本として何をどこまでどう守るかを整理すべき時だ、という。

 最後はやはり対中国が出てきた。いずれにせよ、日米同盟と抑止力強化に奔走する日本の外務官僚たちは、ある意味、軍事の限界を知悉した元防衛官僚の「外交の勧め」をどう聞くであろうか。


ゲスト / Guest

  • 柳澤協二 / Kyoji Yanagisawa

    元内閣官房副長官補(安全保障) / former Assistant Chief Cabinet Secretary

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:10

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