2018年06月25日 10:30 〜 12:00 9階会見場
「セクハラ問題の30年」角田由紀子弁護士

会見メモ

1989年のセクハラに関する国内最初の訴訟で代理人を務めた角田氏。その後「セクハラ」という言葉は浸透し、不法行為として損害賠償請求が行われるようになったが、「性差別が生み出す性暴力である」との認識が未だに欠けていると指摘。性差別を定義し、それを禁じる法が必要、と主張した。

 

司会 福本容子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

損害賠償だけでは限界が

迫田 朋子 (NHK出身)

 前の財務事務次官の女性差別発言が公になり、それに対する財務省の人権感覚の欠如した対応を知ったとき、私は大きなショックを受けた。30年前に日本で初めてのセクハラ訴訟を担当した弁護士であったらなおさらであろう。財務省という日本社会を支えるど真ん中で、こうした認識がまだ残っていたことに驚いたと角田由紀子氏は語った。

 会見では、この30年間はなんだったのかという反省ともとれる言葉が角田氏自身から何度も聞かれた。福岡セクハラ訴訟と言われる裁判で、会社の責任まで認める判決を勝ちとり、その後も何度もセクハラ訴訟を原告側として勝訴に導いてきた弁護士の言葉であるからこそ重く響く。

 セクシュアル・ハラスメントという言葉のない時代から続いていた職場での女性差別の現状に対し、名前を得たことで問題を深めることができた一方で、セクハラという言葉が広まると同時にその本来の意味がうすまってしまったのではないか、と角田氏は危惧する。裁判でいくら勝ったとしても、被害者である女性の心は傷ついたままで、キャリアは失われ、その後の人生が大きく損なわれてしまっている現実をどうしたらよいのか。二度と同じ事態を引き起こさないための再発防止につながっていたのかと自問自答する。

 法的枠組みの問題を角田氏は指摘する。アメリカでは公民権法の規定による差別禁止の考え方が背景にあるが、民法の不法行為に基づく損害賠償裁判を重ねるだけでは限界があるのではないか。ましてや、今回政府が決定した緊急対策である、幹部職員に対して研修を重ねるといった対応だけではセクシュアル・ハラスメントの防止には不十分であると指摘する。

 先頭を走ってきた角田氏の言葉を誰が引き継いでゆくのか、差別禁止の法律をこの国でつくってゆくことができるのか、大きな宿題が残された気がする。


ゲスト / Guest

  • 角田由紀子 / Yukiko Tsunoda

    日本 / Japan

    弁護士 / Attorney-at-Law

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