2017年09月29日 16:00 〜 17:30 10階ホール
馬立誠 元人民日報論説委員 会見

会見メモ

一緒に来日した識者らと国交正常化45年当日に会見。歴史問題を繰り返し持ち出す中国を批判した論文から15年。「戦術的実利ではなく深い相互理解の関係を」と訴える。親日家は肩身が狭い?との質問に「中国嫌いの日本人よりも日本嫌いの中国人の方が少ない」と。
 

 左から許章潤、馬立誠、栄剣、葉匡政の各氏

 

司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)

通訳 大森喜久恵

 


会見リポート

日中関係に新概念「人類愛」を

久永健志 (西日本新聞東京支社報道部次長(元中国総局長))

 日中国交正常化45周年。まさにその記念すべき日に行われた記者会見で、馬立誠・元人民日報論説委員は「人類愛」を新たな日中関係の切り口とするよう提唱した。

 

 「対日関係新思考」で知られる馬氏は45周年に合わせ、「中央公論」10月号で新思考の第3弾「人類愛で歴史の恨みを溶かす」を発表したばかり。では、「人類愛」とは-。

 

 まずその背景から説明した馬氏によると、2国間の関係を処理する1つの方法として「現実的、短期的な実利から出発した考え」があるという。1970年代後半からの日中関係がこれに当たり、経済発展のために日本の資金や技術に対する中国側のニーズが両国関係のベースにあった。

 

 では、中国が経済規模で日本を追い越した今となってはどうなのか。中国にとって日本はもはや必要ないのか-。ここに馬氏の問題意識がある。戦術的、短期的なニーズを乗り越える関係改善のためには「価値観の上での幅広い意思疎通が必要」との考えから打ち出された新概念が「人類愛」だという。

 

 中央公論の論文では、人類愛の基本元素について「寛容」「憐憫」「同情」「博愛」「和解」とある。会見で馬氏は「愛の前提は、相手を理解すること」と指摘。「特に中国人の若い人が日本に来て、さらに繰り返し訪問することで日本を好きになることも愛だと思う」と述べ、日本政府による中国人訪日ビザの発給緩和策などを評価した。

 

 相互理解に関しては、他のゲストも発言。北京錦都芸術センター董事長の栄剣氏は、日本人訪中客減少の背景にある日本人の対中観に関して「中国国民の方が日本に対してオープンなマインドを抱いており、日本国民の方が中国に対して保守的な見方をしているのではないか」と問うた。

 

 このほか、「文化の違いを理解することも信頼構築につながる」(文化学者、詩人の葉匡政氏)、「中国の憲法の規定では根本的な政治や国家体制に反してはならないが、中日関係に憲法はない。日本に対する好感は自由に表現してよい」(清華大学法学院教授の許章潤氏)といった知日派、親日派からの力強い意見の表明もあった。

 

 前日の28日には、中国の国慶節と国交正常化45周年を祝う在日中国大使館主催の式典が都内で開かれ、安倍晋三首相も参加するなど、日中関係に前向きな変化の兆しも見えつつある中での会見。10月18日には第19回中国共産党大会(十九大)を控え、権力基盤を一段と強化する習近平指導部の対日姿勢がどうなるのかも注目されている。

 

 この点に関して馬氏は、北京の人民大会堂でも45周年を祝う記念行事などが開かれていることを例に挙げ「関係改善の兆しであり、十九大の精神を側面から示すものだ。中国の最高レベルでこれらのイベントが承認されている」と解説。次の45年や、来年の日中平和友好条約締結40周年に向けた新たな日中関係を期待させた。

 


ゲスト / Guest

  • 馬立誠 / MA Licheng

    中国 / China

    元人民日報論説委員 / former editorial writer, People's Daily(China)

  • 栄剣 / RONG Jian

    中国 / China

    北京錦都芸術センター董事長 / President of Beijing Jindu Art Center

  • 許章潤 / XU Zhangrun

    中国 / China

    清華大学法院教授 / Professor of Law School of Tsinghua University

  • 葉匡政 / YE Kuangzheng

    中国 / China

    文化学者、詩人 / Cultural scholar

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