2017年08月03日 14:00 〜 15:00 9階会見場
著者と語る『対中外交の蹉跌 上海と日本人外交官』 片山和之 在上海総領事 

会見メモ

現在、通算5度目の中国勤務中。近著では戦前の上海駐在日本人外交官の紹介を通じ当時の対中外交の限界を分析。「今の上海人はビジネスライク。起業家精神が旺盛で日本への関心も高い。日本の対中関心低下は国力の差を一層拡大させる」との危機感も表明。

 

司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

「希望を感じられる街」上海からみた日中関係

中澤 穣 (東京新聞外報部)

東京と北京の視点だけで語られる日中関係は、時に生硬で息苦しい。しかし、上海という視点を加えると、別の側面が浮かび上がる。現職の上海総領事である片山和之氏が、「上海」「外交官」をキーワードに戦前と現在をつなぎ、肌感覚の日中論を展開した。

 

戦前への言及では、先輩外交官に厳しい。国際協調外交を推進した戦前の外交官は、なぜ陸軍の専横を止められなかったのか。この問題意識をもとに日本人外交官11人の足跡をたどり、「軍刀の前に沈黙をよぎなくされたのが政治家及び外交官の現実であった」と結論づける。外交官が味わった「蹉跌」の背景として「外交官個人の資質」を真っ先に挙げたのは、外交官の矜恃の裏返しとも感じた。「蹉跌」をめぐる分析はこれに留まらず、外務省と陸軍の総合力の差、外務省内部で積極的な大陸政策を目指す勢力の伸長、対中強硬策を支持する世論、などを指摘する。

 

現在に話を転ずると、現職外交官としての経験が随所に盛り込まれた。日中関係を「理想的な状況ではない」と評価する一方、上海では対日好感度や日本文化への関心が高く、「将来への希望を感じられる街」と語る。上海地域のビジネスマンの感覚は、シンガポールや香港の実業家と本質的に差がないという。電子商取引やレンタル自転車、そしてネットを利用したビッグデータの蓄積などを例に、「後発国の優位性」を活用して世界の最先端に躍り上がったと分析した。

 

一方で「中国の動きに日本がついていっていない」と危機感を語る。例えば、ある経済人の交流会では、中国に技術援助していた昔の感覚を抜け出せない日本人老経営者と、日中で新しいビジネスを作っていこうという中国の現役経営者の間にギャップがあったという。「日本人は中国の変化を自分でみてみるという知的努力を怠っているのではないか。食わず嫌いではなく、自分の目で中国をみてほしい」と強調した。


ゲスト / Guest

  • 片山和之 / Kazuyuki Katayama

    日本 / Japan

    在上海日本国総領事館 / Consul-General of Japan in Shanghai

研究テーマ:対中外交の蹉跌 上海と日本人外交官

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