2017年03月16日 16:00 〜 17:30 9階会見場
著者と語る『〈和解〉のリアルポリティクス―― ドイツ人とユダヤ人』武井彩佳 学習院女子大学准教授

会見メモ

ドイツ現代史の専門家。ドイツとイスラエルの戦後和解の進展は、冷戦下での双方の利害一致が最大の要因と説く。「ドイツはイスラエルへの経済軍事支援を通じ西側の一員としての地位確立を目指した。イスラエルは過去の問題よりも国家の建設と存続を優先した」。

 

司会 倉重篤郎 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

戦後の「リアル」と記憶の「未来」

緒方 優子 (産経新聞東京本社社会部)

第2次世界大戦後のドイツとイスラエルの和解は、冷戦下における両国の経済的、軍事的な協力関係を土台とした物質的交渉の成果であった。

 

武井氏は本著で、戦後和解の「成功例」とされるドイツ人とユダヤ人の和解の構造的な解析に挑戦し、ひとつの結論を導き出している。戦争の加害者と被害者の和解は、果たして「心」だけの問題か。その本質は、いわゆる「謝罪と反省」か。タブーに思える究極的な問いこそ、投げかける価値がある。

 

冷戦下で西側統合を目指していたドイツと、建国を急いでいたイスラエル。両者の「和解」に向けたベクトルは、1965年の国交樹立以前にすでに符合していた。「軍事的支援と補償-。つまり両者は、共通の『物的言語』を有していたために、交渉の糸が途切れなかった」(武井氏)。謝罪の「言葉」そのものよりも、「行動」が重視されたということもまた、客観的な事実から浮かび上がる和解のひとつの側面であった。

 

ならば、戦後ドイツの圧倒的な「規範性」を裏付けるものは何か。ナチ犯罪者の徹底した断罪に加え、戦後教育の果たした役割は大きいと武井氏は指摘する。

 

本著が世に出るきっかけのひとつとなった日本記者クラブ主催のドイツ・イスラエル訪問(2015年夏)に関して、武井氏はこんなエピソードを紹介している。「驚いたのは、ドイツの学校で学ぶ子どもたちが、ホロコーストを学ぶ意義についてすらすらと言えたこと。過去を克服してきたことが、彼らのアイデンティティーになっている」

 

ドイツでは、戦後70年以上が経過した今も、「加害者」としての記憶が教育によって子どもたちに継承されている。ただし、それは強烈な苦痛やトラウマを伴っていた当事者や近親者の記憶からは確実に遠ざかっている。

 

翻って、われわれが「戦争の記憶」と呼んでいるものの正体は、一体何か。当事者不在の時代の記憶は、「事実」と「想像」が入り交じり、国家にとって不都合なものが淘汰され「パターン化」していくと武井氏は分析する。氾濫する情報の中で、次世代に継承すべき記憶とは何か。それはわれわれマスメディアへの問いかけでもある。


ゲスト / Guest

  • 武井彩佳 / Ayaka Takei

    日本 / Japan

    学習院女子大学准教授 / Associate Professor, Gakushuin Women's College

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