2017年02月21日 13:00 〜 14:30
「2017年経済見通し」(3) 河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

会見メモ

ポピュリズムから日銀の出口戦略、シムズ理論まで辛口の解説。トランプノミクスは「財政大盤振る舞いの賞味期限は1年半から2年程度か」「クローニーキャピタリズム(縁故主義)が新規参入の足かせになる」「次は左派ポピュリズムが出てくるかも」とみる。

 

司会 福本容子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

円安に日本の家計も反発 金融政策の見直しは近い

浜中 淳 (北海道新聞論説委員)

人気エコノミストの河野氏は、意外にも日本記者クラブでの会見は初めてだという。トランプ米大統領就任後ほぼ1カ月のタイミングとあって、ポピュリズム政治がこれからの世界経済をどんな方向に導くかについて次のように語った。「非現実的な政策目標を約束して人々の支持を集めたポピュリズム政治は、結局はその約束のほとんどを実現できない」「新たに生まれる失望を糊塗するため『大盤振る舞いの財政』が加速するだろう」

 

トランプ氏にとって幸運なのは、米国が2009年から景気拡大局面にあることだ。ここに財政資金をばらまけば、一時的な成長率のかさ上げは可能になる。「トランプノミクスの賞味期限は1年半から2年程度」と、意外に長続きしそうだというのが河野氏の見立てである。

 

とはいえ、その政策には問題点も多い。河野氏は特に「縁故主義」の弊害を指摘した。トランプ氏の主張に近い企業・ビジネスが優遇される結果、米企業は「従来、イノベーションを起こす部門に投入していたエース級の人材を、ホワイトハウスとの関係構築に回すようになる」。米国経済に活力をもたらしてきたイノベーションの芽を摘み、潜在成長率を下げる可能性が高いという。

 

拡張財政を進める米国の金利が上昇すれば、日米の金利差が広がり、ドル高円安の基調が続く。これが追い風となり、日本経済は1%程度の成長が来年半ばまで続きそうだと予想する。

 

もっとも河野氏は、異次元緩和で2%のインフレを目指した日銀の「円安バブル醸成戦略」はすでに破綻しているとみる。日本は2014年から完全雇用の状態が続き、賃金の実質購買力を押し下げる円安やインフレは、消費喚起にむしろ逆効果だからだ。現在の実質実効円レートは1973年水準という「超円安」。今や人口の3割を占める高齢者は、過去の蓄積を取り崩すしかなく、実質購買力の低下には敏感だ。「これまで円安は日本にとっていいことだと言われてきた。しかし戦後初めて、家計から円安への反発が起きた」。河野氏は個人消費が低迷し続ける理由をそう分析する。

 

トランプ氏の「円安誘導批判」もあながち的外れとは言えず、出口戦略を視野に入れた金融政策の見直しは近いとみる。原油価格上昇を反映し、消費者物価指数の1%台上昇が定着する10月がそのタイミングで、米政権の外圧によっては7月に前倒しされる可能性もありそうだという。

 

最後に話題のシムズ理論について「政治が、達成困難な財政健全化目標の断念、消費増税の先送りを正当化するために利用する可能性がある」と懸念を表明して、会見を締めくくった。


ゲスト / Guest

  • 河野龍太郎 / Ryutaro Kono

    日本 / Japan

    BNPパリバ証券経済調査本部長 / chief Japan economist,responsible for analyzing and forecasting macroeconomic and policy developments in Japan, BNB Paribas

研究テーマ:2017年経済見通し

研究会回数:3

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