会見リポート
2011年11月11日
15:00 〜 16:30
10階ホール
著者と語る 『バチカンの聖と俗』 上野景文 元バチカン大使
会見メモ
著者と語る『バチカンの聖と俗』(かまくら春秋社)
司会 日本記者クラブ企画委員 井田由美(日本テレビ)
使用したスライド
http://www.jnpc.or.jp/files/2011/11/144998fd590f4971425d3204f60fb42c.pdf
かまくら春秋社『バチカンの聖と俗』のページ
http://kamashun.shop-pro.jp/?pid=33240725
在バチカン日本大使館
会見リポート
日本と似てる? 聖と俗の棲み分け
阪口 昭 (日本経済新聞出身)
「聖と俗」という演題からしてユニークで魅力的だ。ズバリ大胆かつ簡明にエッセンスを表示している。
バチカンは主権国家であるとともに宗教機関でもあり、他にもいくつかの顔を持つ。いったい、その素顔、実態はどうなのか。これを表裏から見つめて対話したい──と考え、上野氏は自らバチカン大使になろうと強く望み、任命された。その時の心境を氏は「武者震いした」と述べている(著書)。痛快である。
バチカンは表向きはカトリックの世界総本山だが、外交関係の親密度となるとカトリック系の国家・民族がいつも一番とは限らない。それどころか、過去、仏、伊と国交断絶の大波乱を起こしたことさえある。
バチカンはいま178カ国と国交を結んでいる。30年前の85カ国の倍以上で、いかにバチカンが宗教・宗派の垣根を超えて国際舞台で活躍の輪を広げつつあるかを物語る。
世界のご意見番・発信基地たる役割に一層期待したいとの氏の意見はうなずける。
上野氏の話でとりわけユニークだったのは、やはり「聖」と「俗」の絡み合いの部分である。氏は例えばそれを欧州で高まっている「動物権」の主張で説明した。人間に「人権」があるのと全く同等に、動物にも天与の権利としての「動物権」を認めるべきだ、とする思想に対しバチカンは、そういう「聖」の極端な純化は間違っている、と批判的だ。
おもしろいのは、バチカンに集うカトリックは、一神教の原理に立ちながらも、結構、柔軟かつ弾力的で、原理・原則にのみ固執しない、と氏が見ていることだ。これが氏の言う“文明論的アプローチ”による考察の結論である。
この見方は当然、聖・俗がうまく棲み分けて暮らしている日本との関係にもつながる。「バチカンと日本は文明的に似ているのです」。これまで遠くに見えたバチカンが近くに映った1日だった。
ゲスト / Guest
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上野景文 / Kagefumi UENO
元バチカン大使 / Former Ambassador of Japan to Vatican City State
研究テーマ:『バチカンの聖と俗』