2011年03月08日 14:30 〜 16:00 宴会場(9階)
研究会「中東民主化とイラン」 松永泰行 坂梨祥・日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員

会見メモ

イランに詳しい松永泰行さん(東京外語大)と坂梨祥さん(日本エネルギー研究所)が研究会「中東民主化とイラン」でイラン情勢を分析し、質問に答えた。


≪「30年間の革命体制で鎖国状態が続き、体制側が丸めこむ、あるいはいいくるめる大規模な閉塞状況にある」(松永)、「デモ予告は体制側が抑え込んでいる。何かのきっかけで不満が突発的に広がれば、エジプト型というよりリビア型になるかもしれない」(坂梨)≫


松永さんは中東における民主化とは何を意味するかと問題を提起した。「①制度や手続きの改変・改編だけでは限界がある②西洋流の価値観(世俗主義や国民国家など)は中東にはなじまない」とした上で「③既存の支配―被支配の権力関係が変わるか」を指摘。「エジプトでムバラク大統領が退陣した1・25革命は、イランでは97年5月の大統領選でハタミ候補が勝利した時の国民の喜びに匹敵する。しかし、権力関係が変わったわけではなく、ハタミ大統領は何も変えられなかった」と述べた。イランでは革命防衛隊に亀裂は生じておらず、改革派の「緑運動」が支持されているというより、不満が大きいだけ、との見方を示した。

坂梨さんは、チュニジアやエジプトの変化について、イラン指導部は、1979年のイラン革命が中東地域に波及したものでありイラン体制の正統性を証明すると主張していると説明した。体制を維持する基盤として、民意を反映しているとアピールできる選挙、現体制支持の見返りに分配できる石油の富、さらに革命防衛隊の存在をあげた。しかし、パレスチナ問題や帝国主義といったこれまでの体制側のスローガンが色あせており、経済制裁の効き目が長期的に現れ、物価上昇や補助金撤廃による不満拡大を指摘し、体制のほころびもうかがえると述べた。

イランのネット状況について、松永さんは「ブロードバンドの普及が遅れ、当局がネットを規制するなどコントロールできている。若者にもエジプトのようなバイタリティがない」と述べ、ハメネイ師ら革命第一世代が退場するときが変化のきっかけだが、革命防衛隊があらゆる力を結集しており実権を握る展開になるかもしれないと推測した。


司会 日本記者クラブ企画委員 脇祐三(日本経済新聞)


松永泰行さんのホームページ

http://www.alpha-net.ne.jp/users2/ymalphan/

東京外国語大ホームページにある松永泰行さんの紹介

http://www.tufs.ac.jp/research/people/matsunaga_yasuyuki.html

日本エネルギー研究所ホームページにある坂梨祥さんの紹介

http://jime.ieej.or.jp/htm/pamphlet/fellow3.htm#sakanashi


会見リポート

リビアのようにはならない

二村 伸 (NHK解説委員)

中東の政変がイランに及ぼす影響は? イランでも政変が起こりうるのか? この疑問に松永泰行氏はズバリ答えた。「何も変わらない。リビアのような状況にはならない」


その根拠として、ベン・アリ、ムバラクといった独裁者による支配とイランはそもそも権力構造が異なるうえ、強力な革命防衛隊が存在すること、各国のデモの中核をなすエリート層がイランでは国外脱出して不在であることなどをあげている。


印象に残ったのは、エジプトの政変が97年のイラン大統領選挙のハタミ師勝利に匹敵する程度との指摘である。「国民が主権者であるという自覚が確立したイラン革命にはまだまだ及ばない。今のエジプトは15年前のイランの状況に近い。イランの例を参考にするとエジプトはこれからいばらの道だ」という。ペルシャ専門家とアラブ専門家の間で議論が分かれるところだと思うが、そういう見方もあるのかと興味深かった。


一方、坂梨祥氏はイラン政府がチュニジアやエジプトの反政府デモを帝国主義に対する戦いと位置づけ、「イラン革命の正当性を証明するものだ」と自分たちに都合の良い解釈をしていると分析。2月のテヘランの抗議デモの死者すらも体制側の「殉教者」だと発表しているという。


また、イランで突発的な事態が起きた場合、エジプト型よりリビア型になるだろうと松永氏とは異なる見方を示した。


イランでは2月末にも抗議デモを計画したムサヴィ元首相らが拘束されるなど、反政府の動きは封じ込まれている。中東では未来を予測するのは禁物だと言われるが、お二人の言葉を借用すると、イランでは当面大きな変化は起きそうにないようだ。


ゲスト / Guest

  • 松永泰行 坂梨祥・日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員 / Yasuyuki MATSUNAGA

    日本 / Japan

    東京外大准教授 / Assistant Professor, Tokyo University of Foreign Studies Sachi SAKANASHI, Senior Researcher, JIME Center, The Institute of Energy Economics

研究テーマ:中東民主化とイラン

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