2025年01月29日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「2025年経済見通し」(3) 森雅彦・DMG森精機代表取締役社長

会見メモ

シリーズ3回目のゲストとして、森雅彦・DMG森精機代表取締役社長が登壇した。DMG森精機は2022年に社員の平均給与を20%引き上げ、その後も毎年2~3%の賃上げを続けている。森社長は、この20年間で事業をどう展開してきたのか、デジタル化や工程の集約化など生産性向上に向けた取り組みなど、どのように賃上げの原資を生み出してきたのかを解説。その上で、人件費や年間の総労働時間がこの間どう変化してきたのか、今後の課題などを説明した。

給与をあげる前に株主還元をという声もあるが、「しっかりもうけ、文句を言われない営業利益を出し、社員、サプライヤーに還元していくことが必要」と強調。また自動車の電動化に伴い、手に技術を持った整備工が将来に不安を持ち始めている状況にあるとし、「いまはM&Aよりも手に技術のある人を集めるのに適切な時期」とも述べた。

 

司会  今井純子 日本記者クラブ企画委員 (NHK)


会見リポート

「日本の給料は低すぎた」

木村 裕明 (朝日新聞社経済部)

 世界最大手の工作機械メーカーを率いる経営者が登壇。2022年に社員の平均年収を大幅に引き上げる給与改定に踏み切り、その後も毎年賃上げを続ける理由を明快に語った。「日本の給料が低すぎた」

 16年に独同業大手と経営統合してグローバルに事業を拡大。社員数は1万3500人と20年前の4倍超に増え、日本人とドイツ人が各4千人を占める。日本人社員の平均年収は約900万円と3年前より20%強アップした。為替を考慮すると同じように働いてもドイツの給与水準が日本より20%ほど高かったため、日本の給与水準を引き上げたという。

 機械を売って終わりにせず、保守・修理などのサービスを収益の柱に育てる。機械の高度化も進めて単価を上げる。こうして稼ぐ力を高めて賃上げ原資を生み出す。王道の賃上げと言えよう。年収に占める賞与の割合を下げて月給を手厚くする施策も賃金の安定に向けた改革として参考になる。

 一方、社員数も出荷額も同程度の日独の工場を比べると、人件費は同程度に並んだが、年間総労働時間は日本の2000時間前後に対し、ドイツは1500時間強。なお開きがあるとも説明した。年収の水準や年間総労働時間を開示しない日本企業の賃上げの進め方に「今のままの議論ではまじめにやっている経営者が一番損をする」と苦言も呈した。

 日本生産性本部が昨年末に公表した23年の日本の時間当たり労働生産性はドイツより約4割低い。こうしたデータはえてして抽象的に感じるものだが、グローバル企業の実情を聞くと彼我の差を改めて痛感する。

 国際的にみて日本は最低賃金も低い。「若い人の賃金が安すぎる」とも指摘し、できる会社が初任給を上げるのが望ましいと提言した。実際、大企業で初任給を上げる動きが広がるが、労働分配率が高止まりする中小企業の追随は容易ではない。折しも春闘の季節。政労使が賃上げの定着を叫ぶ大合唱だが、むしろ大手と中小の格差拡大が心配になる。


ゲスト / Guest

  • 森雅彦 / Masahiko MORI

    DMG森精機 代表取締役社長 / president and chief Executive Officer, DMG MORI CO., LTD.

研究テーマ:2025年経済見通し

研究会回数:3

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