2021年10月26日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「サイバー社会」(3) 木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト

会見メモ

中国が正式に発行準備を進めている「デジタル人民元」の仕組みや狙いなどについて、木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストが話した。

木内さんは元日本銀行政策委員会審議委員で、『銀行デジタル革命 : 現金消滅で金融はどう変わるか』(東洋経済新報社、2018年)の著書がある。

 

司会 中山淳史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

今なぜ、デジタル通貨なのか

大辺 暢 (日本経済新聞社NAR編集部)

 デジタル通貨が、自民党や日銀で真剣に検討されている。きっかけは中国によるデジタル人民元の取り組みだ。日本も、隣の超大国の動向には無関心ではいられない。ただ、「デジタル通貨」や「決済システム」といった概念はとっつきにくい。野村総合研究所エコノミストで元日銀審議委員の木内登英氏は、中央銀行発行のデジタル通貨がわれわれの生活に関わる身近な問題であることを、会見でわかりやすく解説してくれた。

 背景にあるのは米国による対中包囲網だ。米バイデン政権のもと、「中国にとってより厳しくなっている」と木内氏。中国は、「一帯一路」の経済圏確立を目指すが、そこで使われる通貨もドル。その決済は「スイフト」と呼ばれる国際システムの管理下にある。いざとなれば、米国は中国によるドル調達をストップできる。「どこかでドルが調達できなくなったら、(中国は)貿易も成り立たなくなる」と木内氏は話す。

 米国の金融支配への対抗手段が、デジタル人民元だ。周辺諸国も視野に入れたこの構想は、「アメリカの支配から逃れていこうという狙いが恐らくあるのではないか」と木内氏は分析する。民間のデジタル・プラットフォーマーが金融分野を支配することを未然に阻止する狙いもあるようだ。

 米中デカップリングやプラットフォーマー規制が進むと、将来はどのような世の中になるのか。中国は「比較的効率の悪い経済圏になってしまう恐れもある」と予想する。

 西側陣営も無傷ではいられない。ドル資産の買い手である中国の需要がなくなれば、ドル暴落の可能性もあると木内氏。日本の機関投資家にとっても、対岸の火事ではなくなる可能性がある。

 こうした予測は、にわかには信じがたいかもしれない。だが、世の中は大転換期にある。「想定外」に驚かされないよう、木内氏は思考の柔軟性を説いているようだ。


ゲスト / Guest

  • 木内登英 / Takahide Kiuchi

    野村総合研究所エグゼクティブ・エコミスト

研究テーマ:サイバー社会

研究会回数:3

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