2021年10月15日 16:30 〜 17:30 10階ホール
木村敬一・東京パラリンピック競泳金メダリスト 会見

会見メモ

東京パラリンピックの水泳で、金メダル(100mバタフライ)と銀メダル(100m平泳ぎ)を獲得した木村敬一さんが大会を振り返った。

司会 森田景史 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)


会見リポート

10秒強 頂点への自問自答

結城 和香子 (読売新聞社編集委員)

 東京パラリンピック競泳男子百㍍バタフライで、悲願の金メダル獲得に至るまでを、詳細な描写と自己分析で振り返った。心に浮かぶように描き出す言葉と、一瞬一瞬に及ぶ記憶。視覚情報に頼らず、内面や思考と向き合う生き方のゆえだろうか。

 レースでの思いをこう振り返る。「期待と、負けたらという恐怖が入り交じり、前夜はほとんど眠れなかった。レース前は内臓が宙に浮いているような緊張感。すごくのどが渇いているのに、水を飲むと吐いてしまいそうな感覚の中で始まった」

 本番では75㍍過ぎでコースロープに接触し一気に減速。最後の20㍍は「最後まではもう持たない。このまま負ければリオの時と同じだ。自分は結局、そういう星の下なのか。いや、あの思いだけはもう二度としたくない」――心の葛藤の中で「ゴールに流れ着いた」のだという。時間にして、10秒強のことだ。

 以前彼に、金メダルばかりを考え過ぎない方がいいのでは、と失礼な助言をしたことを思い出す。勝ちを意識し平常心を失った選手の事例は少なくない。でも木村選手はあくまで自分の内面と向き合い、恐怖を見つめ、それを突き抜けて頂点をつかんだ。思いの強さに脱帽したい。

 優勝を知った瞬間だけは、形容しがたいという。「あの感情を揺さぶられた瞬間は、この先どれだけそういう思いができるか。この世に生を受け、生きてきて良かったと、心から思わせてもらいました」。表現し得ないことが、むしろあふれる喜びを伝えてくる。ありのまま、それが支えて来た人々やライバルまでをも引きつける彼の人間性だ。

 コロナ禍で「開催を信じることしかできなかったしんどい時間」を経て実現した夢。「様々な障害を持つ人が世の中に生きていると知り徐々に距離感が縮まれば、人と人との違いを楽しめる社会がやってくるのでは」。メッセージを受け止めたい。


ゲスト / Guest

  • 木村敬一 / Keiichi Kimura

    東京パラリンピック・競泳金メダリスト

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