2021年10月15日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「アフガニスタン」(3) 内藤正典・同志社大学大学院教授

会見メモ

中東・イスラム地域研究が専門の内藤正典・同志社大学大学院教授が、9.11からの20年と現在のアフガン情勢を、西欧とイスラムの関係から解説した。

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

日本の報道は欧米の論調なぞりすぎ/生活者としての視点を

髙橋 祐介 (NHK解説委員)

 「日本のジャーナリズムは欧米の論調をなぞりすぎている」。内藤教授は「タリバンを悪魔化するかのような」一面的なアフガニスタン報道を舌鋒鋭く批判した。邦人退避をめぐっても「日本政府は逃げ出す前にタリバンと交渉し、援助関係者らの身の安全を保証させることが先決ではなかったか」と容赦ない。アメリカ主導の「テロとの戦い」は、なぜ失敗を繰り返してきたのか? その要因の一つに、世界16億のムスリムに対するリテラシーの低さがあるのは確かだろう。

 内藤教授は、軍事作戦の当初の目的が、いつしか「民主国家の建設」にすり替わったあたりに失敗の淵源を指摘する。「イスラム法に基づく統治原理は西欧型の民主主義と相いれない」「そもそも国民主権の発想もない」そうした社会を志向する人々に価値観を押し付けても反発を招くのは自明の理だと言う。

 アフガニスタンはこの冬「人道的な大惨事が起きかねない」と国連は警告する。タリバンの承認如何にかかわらず、人道支援は国際社会に課せられた急務だ。内藤教授は「タリバンも大人になり、国際社会へ復帰をめざして現実的な外交を模索している」と分析する。「西欧とイスラム世界の相克に揺れてきたトルコ」を例に挙げて、タリバンと向き合う上でも複眼的なモノの見方を説いた。

 いまのわれわれには、中村哲医師が大切にしたような「生活者としての視点が決定的に欠落している」と内藤教授は警鐘を鳴らす。かつて京都にアフガニスタン政府とタリバンの関係者を招いて対話の場を設けた際、議論はもめても懇親の席では双方が鍋を囲み、隣室で一緒に礼拝したエピソードを紹介して会見を締めくくった。いつかタリバンと共生できる日は来るだろうか。そんな一縷の希望を抱かせた。


ゲスト / Guest

  • 内藤正典 / Masanori Naito

    同志社大学大学院教授

研究テーマ:アフガニスタン

研究会回数:3

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