2021年10月01日 16:30 〜 18:00 10階ホール
「原子力災害と風評被害」関谷直也・東京大学大学院准教授

会見メモ

関谷直也・東京大学大学院准教授が福島の例を中心に風評被害のメカニズム、海洋放出の影響などについて話した。

関谷さんは災害情報論が専門で、福島原発事故の風評被害の研究に取り組み、処理水の取り扱いに関する経済産業省の委員も務めた。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 

東京大学大学院情報学環HP 研究者紹介


会見リポート

海洋放出 説明し尽くす必要/問題提起型の報道も一因に

奥山 智己 (毎日新聞社科学環境部)

 これまで各地で起きた原子力災害に伴う風評被害に、社会心理学の手法でアプローチしてきたという。では、風評被害とは何か。安全が関わる社会問題(事故や環境汚染など)が報道された後、本来は安全な商品や土地が危険視され、消費や観光をやめることにより引き起こされる「経済的被害」と解説した。

 1954年にマグロ漁船「第五福竜丸」がビキニ環礁で死の灰を浴びると、国内各地で放射性降下物が確認されたことが大々的に報道され、魚介類全般が売れなくなる「放射能パニック」が発生。国は56年、「間接損害」という風評被害を国家予算として初めて認めた。その後も、81年に日本原子力発電・敦賀原発であった放射性物質漏れ、99年にJCO東海事業所で起きた臨界事故などが続くが「いつも漁業者が被害を受けている」という指摘には、思わずうなずいた。

 風評被害の原因を考えた時、東京電力福島第1原発事故の場合、メディア側にも課題があり「全国メディアがジャーナリズムとして問題提起型の報道をした結果、消費者に悪いイメージを与えた面がある」との見方を示した。福島県産の食品について、県民の拒否感が低下していったのは、検査体制が確立されて安全性に問題がないと理解を深め続けたからだと分析した。一方、海外、特にアジアでは今でも福島第1原発などの情報が正確に伝わっておらず、10年前の状況から理解が進んでいないため、不安感が持続されている。こうした点を踏まえ「現状について、誤解のない情報や事実を伝えるのが重要」と説いた。

 最後に、福島第1原発の処理水の風評被害対策にも触れた。「漁業関係者は海洋放出に納得しないが、それでも政府・東電は説明し尽くさなければならない。それなのに、声を聞く努力が足りておらず、それがないままになっている」。今日までこの問題をこじらしてしまった要因を、端的に突いていた。


ゲスト / Guest

  • 関谷直也 / Naoya Sekiya

    東京大学大学院情報学環附属総合防災情報研究センター准教授

研究テーマ:原子力災害と風評被害

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