2023年06月19日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「大統領選後のトルコー内政と外交」内藤正典・同志社大学大学院教授

会見メモ

現代トルコ、及び中東・イスラム地域研究の第一人者である内藤正典・同志社大学大学院教授が登壇。5月にトルコで行われた大統領選と国会議員選挙の結果を分析するとともに、今後のトルコの内政、外交の行方を語った。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 

※YouTubeでのアーカイブ配信は行いません。


会見リポート

外交姿勢あくまで実利

竹内 幸史 (朝日新聞出身)

 中東においても、ウクライナ戦争においても、様々な紛争の解決や地域の安定に重要なカギを握る国、トルコ。今年10月には、建国100周年を迎える。この地域大国の地政学的な深淵を知る上で、実に幅広い知見を提供していただいた。

 今年5月の大統領選挙では接戦の末、現職のエルドアン大統領の続投が決まった。彼の実像を知ると、トルコの「国のかたち」が見えてくる。日本の報道では、イスラム色の濃い保守派の印象が強いが、少数派であるクルド人の人権や言論の自由の拡大を図ってきたのは、ほかならぬエルドアン大統領だった。欧州連合(EU)加盟を意識したものだが、死刑制度も2004年に廃止した。

 与党の公正発展党はイスラム主義を掲げても、シャリーア導入までは考えず、世俗主義を堅持する。ケマル・アタテュルク初代大統領が提唱し、憲法で定める原則だ。イスラムと世俗主義の間の微妙なかじ取りは、「世俗主義の牙城」と呼ばれる司法当局や軍部との綱引きを繰り返してきたトルコ政治の知恵なのだろう。

 その一方、外交姿勢もバランス感がある。ウクライナ戦争では「中立」ではなく、国連でのロシア非難決議では一貫して賛成してきた。自国憲法で「領土・国民は不可分の一体」を唱い、ロシアのウクライナ侵略は認めない。ただし、米欧主導のロシア制裁には同調しない。また、北大西洋条約機構(NATO)には加盟国の義務は果たすが、国益で妥協はしない。対米、対ロ、対EU、対中とも実利で対応するが、信頼していない。「2つの隣国が大喧嘩した場合、トルコはどちらの肩も持たない」と内藤教授。争いが終結後、両方との関係を持続させたいからだ。

 エルドアン政権の新閣僚には、女性やクルド人を枢要な大臣に起用し、地震被災後の国土強靭化や貧困層支援を強化する構えだ。地域大国として、和平の仲介外交などに一層の存在感を発揮してほしいものだ。


ゲスト / Guest

  • 内藤正典 / Masanori NAITO

    同志社大学教授 / Professor, Doshisha University

研究テーマ:大統領選後のトルコと国際関係

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